とんぼ詩集

とんぼ玉骨太郎

死へ向かう詩

この詩が公開されるころ、なんらかの理由によって「とんぼ詩集」は20日間程度更新を停止している。

その理由はさまざまにあるだろうけれど、とにかく、この詩が公開されるということは、この詩こそが「とんぼ詩集」における最後の詩となる。

最後の詩を何にすべきか。

たとえば明日死ぬ人が、「最後に食べるご飯は何がいいだろうか」とか「最後に見るのは誰の顔がいいだろうか」とか言っていたとする。私はその質問に答えるすべをもたない。私は死んだことがないからだ。でも、いざ自分が死ぬとなると、そういうものに答えを出したくなるだろう。

なのでとにかく私は、最後の詩は「死の間際なにを選ぶべきか」ということについての私の意見を……死から遠い私の意見を、とにかくも書き記しておくことにする。この意見にはなんの根拠もないし、なんの強制力もなく、また私の意見は3日後には変わっているかもしれないし、なんの意味も持たない。その上でこの詩を記す(もはやこれは詩というよりエッセイに近いような気がするが、あまり枠組みに囚われる必要性も感じない)。これは死へと向かう私が残りの人生をどう生きるべきか、という意見を集めた詩である。


死へ向かう私へ

あなたの体は死んだのか

車に轢かれちぎれ飛んだか

鉄の下敷きになり潰れたか

刃物に刺され血まみれになったか

毒に侵され膿を出したか

安らかな老衰を迎えたか


あなたの心は死んだのか

人に見られることを恐れたか

他に拠り所を見つけたか

恥や恐怖を感じたか

全てを忘れてしまったか

わかったようなふりをして過去の喜びと悲しみを消し去ろうとしているのか


ならば最後に過去を想え

希望なき未来ではなく絶望なき過去を

死が忍び寄っていないころの過去を


ならば最後に歌を歌え

一番好きな歌を

一番歌いたい歌を


ならば最後にどうか近くに人肌を

36℃の暖かみを

触れるだけで涙するその温もりを


ならば最後に眠れ

起きながら死ぬのではなく幸せな夢を

全てから解放された空高き夢を


ならば最後に生を想え

愛と夢と希望に満ち溢れた生を

死へと向かうあなたを蝕む輝きの生を


そして最期は口を噤み

何も識らずに死んでゆけ

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