春
出会いと別れ 花 生命 春眠
雨の日の土のにおい
雨が降っていた
僕は引っ越したばかりで
好きな子と同じ帰り道になった
いつもならすぐに出る教室も
なるべく仕度をゆっくりして
あの子を待っていた
傘を忘れたのかそれともわざと傘をささなかったのか
僕は雨に濡れながら帰った
あの子はいつまで待っても学校から出てこなくって
ひたすらゆっくり雨の中を歩いた
竹の葉っぱがしずくをはじいて
地面はじゅわじゅわぬかるんでいた
上り坂の入口で
あの子が歩いてくるのが見えた
僕は不自然極まりないほどに
さらにゆっくり歩き始めた
おそらく誰でも「具合が悪いのか」と心配になるほどに
ほぼ這いずっていると言っていいほどに
竹林横のフェンスにもたれかかり
僕はあの子を待った
あの子は僕に傘を差し出し
(それは薄いピンク地に濃いピンクの水玉模様の傘だったけれど)
目の前のマンションに消えていった
その日の土のにおいが
あの子に関する思い出の中でいちばん強い思い出
ゆうべ竹林横を歩いていると
あのときの土のにおいがして
僕は驚き顔を上げた
あの子が住んでたマンションはもう跡形もなく
ただいくつかの生臭い
土の山があるだけだった
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