パレオとアレッサンドラ

「わたくしは今日からここに住むわよ。

 部屋と……、それから研究室を用意してちょうだいね」

「は?」

「妾も今日からここに住むことにするのじゃ。

 急ぎ部屋を用意せよ」

「はあ?」

 いきなりやってきて何言ってんだ?

 この二人なんなの?




 昨夜、澪とフランからそれぞれ連絡があった。

 どちらも、「明日家に着く。一人客を連れてきている」という内容だった。

 それぞれ客が一人ってことは、どちらも交渉してる相手なのかな。

 もしくはその関係者か。

 どっちにしろ、失礼のないようにお迎えしなきゃだ。

 みんなも帰ってくるし、お客さんも来るし、せっかくだから何か食べるものでも用意しとこう。

 そう思って思いついたのが、卵と砂糖だけで作れるアイスだった。

 これなら簡単にですぐできるし、何より異世界の食べ物ってことでみんな喜ぶだろう。

 なので、卵と砂糖の簡単アイスを作ることにする。

 といっても、俺は作り方を教えるだけで、実際に作業するのは薫子さんとバハムルなんだけどね。

 俺は猫の体だから料理系の作業は不向きだ。

 まず、卵白と卵黄を分ける。

 ボウルに卵黄と砂糖を加えて、もったりするまで混ぜる。

 卵白を別のボウルに入れて、角がピンと立つくらいのメレンゲを作る。

 ハンドミキサーなんてないので、泡立て器で手動でがんばってもらった。

 メレンゲを二~三回に分けて卵黄の入ったボウルに加えて、泡を消さないようにして全体をよく混ぜる。

 できたものを容器に入れて、冷凍の魔法具で固まるまで冷やしてできあがり!

 難しい工程はないので、料理初心者の薫子さんとバハムルも楽しんでいた。

 固まったら三人で少しずつ味見。

 うん、いい感じだね!

 さすがウ・コッケーの卵、美味しいな。

 薫子さんとバハムルも、プリンの時のように感動していた。

 今回は自分たちで作ったから、感動はもっと大きいかもしれない。

 アイスも完璧だし、あとはみんなが帰ってくるのを待った。

 しばらくするとみんなが帰ってきた。

 なんの偶然か、同じタイミングで。

「みんなおかえり」

「おかえりー!」

「おかえりなのだ!」

 早くアイスを披露したいのか、テンションが高い薫子さんとバハムル。

「ただいまー。

 フランたちと同じタイミングだったんだねー」

「そうみたいだし。

 とりまただいまだし」

 そして、お客さんを紹介された。

「こちらが魔族の国で一番の魔法の研究者のパレオさん」

「こっちがエルフの国の第一王女のアレッサンドラだし」

 俺と薫子さんとバハムルはぺこりと軽く会釈した。

「わたくしは今日からここに住むわよ。

 部屋と……、それから研究室を用意してちょうだいね」

「は?」

「妾も今日からここに住むことにするのじゃ。

 急ぎ部屋を用意せよ」

「はあ?」

「そこのメイド。

 ぐずぐずしないで早くね」

「えっ?」

「そこなメイドよ。

 こちらも早うするのじゃぞ」

「ええっ?」

 二人とも薫子さんに向かってそう言い放った。

 薫子さんはアイスを作った時につけてたエプロンをそのままつけっぱなしだったので、それでメイドと間違われたのかな。

 とはいえ、さすがにガイアの管理者相手にこの態度はまずい。

 本人はなんとも思わないだろうけど、それを許さないドラゴンと天使が傍にいるわけで。

「「ギルティ!」」

 ゴツンッゴツンッ!!

 フランとロナが二人にゲンコツを落とした。

 超痛そう……。

「いったああああ!

 何すんのよ!」

「妾に対してなんたる狼藉!」

「はあ?

 おいアホエルフ、あんた死にたいっしょ?

 楽に地獄に送ってやるし」

「随分と頭の悪い魔族のようですね。

 生きてる価値などなさそうですので、消しましょうか」

「「ひぃっ!」」

 フランとロナに凄まれてパレオさんとアレッサンドラさんが震える。

 フランは何もない所からとんでもなく禍々しい槍を取り出してアレッサンドラさんに穂先を向ける。

 ロナは家の中だからドラゴンの姿に戻らなかったが、角と翼を出してパレオさんを威圧する。

「そ、そ、それは……、グングニル……!

 ガタガタガタガタ……」

「あ、あ、あなたもドラゴンでしたの……。

 ブルブルブルブル……」

「「も、申し訳ありませんでしたああああ!」」

「まぁまぁまぁまぁ、二人とも落ち着いて!

 私はなんとも思ってないから。

 ねっ?」

「わかったし……」

「かしこまりました……」

 不満そうだが、ひとまずはこらえてくれた。

「それはそうと、ここに住むってのはどういうことなの?」

「それは私も今初めて聞いたよ。

 どういうことなの?パレオさん」

「それはこっちもだし。

 とりあえずここに連れて行ってほしいって言うから連れてきたけど、住むとか聞いてないし」

「それはその……」

「なんと申せば良いか……」

「「ここにいれば毎日プリンを食べられると思って……」」

 えええええ、そんな理由?

 めっちゃ力抜けたー……。

「そんな理由だったの?

 プリンなら作り方教えるって言ったでしょ?」

「わたくしの舌は誤魔化せないわよ?

 プリンには最上級の卵とミルクが使われてるでしょ!

 そんな材料、デモーンで揃えられるわけないじゃない!」

「そうじゃぞ!

 妾も卵とミルクが最高級品だと気づいたのじゃ!

 あのような卵とミルク、エルフィニアでは手に入らぬ!」

「マジか、よく材料とか気づいたし……」

「そういえばアキナさんも材料言い当てたよね。

 この世界ってグルメな人多いの……?」

 まぁ、そこまでプリンに釣られてるのならやりやすいかな。

「薫子さん、この件俺に任せてもらえないかな?」

「うん?もちろん。

 ジズーに全部任せるよー」

「ありがとう」

 俺はパレオさんとアレッサンドラさんの前に立って口を開いた。

「プリンが食べたくて来たのは理解しました。

 ここに住みたいというのなら、部屋を用意します」

「ジズー何言ってるし!」

「ただし、条件があります!」

「なんなのじゃ?この小さい獣は」

「見たことのないモンスターねぇ。

 なんでこんな所にいるの?」

 ズドンッズドンッ!!

「ドラゴンがリバーブローだなんて……」

「リバーはダメじゃよ……、リバーは……」

 今度は二人にリバーブローが突き刺さった。

「ジズーに対してなんて口きいてるし」

「やはりこの魔族、死にたいようですね」

「待って待って待って!

 初対面だとしょうがないって!

 ほら、ガイアだと俺の見た目はただの小さいモンスターらしいし!」

「ですが!」

「あー、ちょっとごめん。

 バハムル、アイスを二人分持ってきてくれる?」

「わかったのだ!」

「へぇー、ジズーアイス作ったんだ?」

「作ったのは薫子さんとバハムルだけどね。

 俺は作り方を教えただけだよ」

「持ってきたのだ!」

「ありがと。

 ほら、二人ともこれでも食べて機嫌直して、ね?」

「なんだしこれ?」

「これも見たことのない食べ物ですね」

 ぱくり。

「うまああああああああああああい!」

「おいしいいいいいいいいいいいい!」

「なんだしこれ!

 プリンとはまた違う美味しさ!」

「ほんとですね!

 冷たくて美味しい!

 すばらしい!」

「喜んでもらえてよかったよ」

 フランとロナがアイスに夢中の間に話をつけちゃおう。

「話の続きだけど、こちらの条件はサッカーの普及に協力すること。

 話はそれぞれ聞いてますよね?

 パレオさんは魔法具の作成。

 アレッサンドラさんはゴムに関する口利き等。

 協力してくれるのなら、ここに住んでもらって構わないですし、おまけでフランとロナが今食べたアイスという食べ物も差し上げますよ」

「「え、いいの!?」」

 二人ともアイスに視線が釘付けでわかりやすすぎだ。

「ええ、その代り、協力を約束できますか?」

「するする!

 なんでも手伝うからくださいいいいいいいいい!」

「妾もなんだって協力するのじゃ!

 アイスとやらをおくれ!」

「バハムル、悪いんだけど二人の分のアイスをお願いできるかな?」

「もう持ってきたのだ!」

「お、さすがバハムル!

 ありがとね!

 では、アイスをどうぞ」

 二人はアイスを受け取り、そして一口食べた。

「「っっっ!!!」」

 カッと目を見開いたかと思ったら、そのまま一気にアイスを食べた。

「この作り方を教えたとあなたは言ってたわね?」

「ええ、言いましたけど」

「あなたは神か!」

「はあ?」

「確かに、このような物を作り出すなど、神の所業なのじゃ。

 お主、神だったのじゃな!」

「いやいやいやいやいや!」

 もうめんどいので二人に俺たちのことを話した。

 二人とも驚きすぎて気絶した。

 そして、目が覚めると何度も何度も謝ってきた。

 薫子さんは気にしてないし、もう十分謝ってもらった。

 これからここに住むなら仲良くやっていきたい。

 こうして我らが薫子一家に新たな住人が二人加わった。

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