高級プリン
フランの執念によって、うちにゴールデン・ガンジーが五頭やってきた。
百段たちのように、俺と会話ができる乳牛のモンスターだ。
うちに連れ帰って早速牛乳を飲ませてもらったけど、濃厚ですごく美味しかった。
牛乳も上質で、卵も上質。
ここまでくると、砂糖も品質にこだわりたくなるけど、砂糖を作るとなるとサトウキビ探しから始めることになる。
さすがに砂糖はまたの機会でいいかなって思った。
一応うちにあるのはケモッセオで一番質の良い黒糖だしね。
「じゃあ、早速プリンを作るよー!」
澪と雫が準備を始める。
フランたちはテーブルにスタンバイ。
「いやいやいや、プリンってそんなすぐにできないよ!」
俺は慌ててフランたちに言った。
「どのくらいでできるし?」
「プリン液を作って蒸すまではそんなに時間かからないけど、冷やすのに二~三時間くらい必要かな~」
「「「「えええーっ!?」」」」
「楽しみにしてるのはよーくわかるけど、こればっかりはしょうがないよ。
できるまで、牛のための小屋を作りたいから木材の加工でもしてようよ」
「むぅ~、しょうがないのだ……」
「「うーっす……」」
フランたちはしぶしぶ木材置き場に向かった。
木材を加工しながらも、話題は自然とプリンになる。
「一体どんな味なんすかねー、プリンって」
「ちょっとみんなそんなに期待しすぎないでよ。
ぶっちゃけ美味しさってことで言ったら、デリ肉のステーキのほうが全然美味しいからね?」
「それでも、ジズーたちがデリ肉じゃなくてプリン食べたいなって思っちゃうほどっしょ?
めっちゃ美味しいってことだし?」
「うーん、美味しいの種類が違うというかなんというか……。
まぁ、こればっかりは実際に食べてもらわないとなんとも言えないんだけどさ」
「やっぱりすごく気になるっすー!」
「早く食べたいのだー!」
三時間後、プリンができたので雫が俺たちを呼びに来た。
結局みんな、プリンができるまで「早く食べたい!」や「どんな味なんだろう!」を延々と繰り返していた。
それでも、木材の加工は必要な分は加工し終えた。
プリンを食べた後、今日中に牛小屋を建てたいな。
みんなには悪いけど、もうひとがんばりしてもらおう。
みんな行儀よく椅子に座ってプリンを待つ。
ここで澪の機嫌を損ねてプリンおあずけとかになるわけにはいかない。
たぶんみんなそんな感じのこと考えてるんだろう。
いつも机に突っ伏して澪に小言を言われてるフランですら、行儀よく座ってる。
みんなほんと必死だ。
「はーい、これがプリンですよー!」
澪と雫とロナがプリンを運んでくる。
「「「「おおーっ!」」」」
歓声が上がる。
「なんか、ずいぶん小さいっすね?」
「これが普通の大きさだし?」
「これじゃお腹いっぱいにならないのだ!」
あー、なるほど、みんなちょい勘違いしてるな。
「プリンはご飯とは違うんだよ。
食後とか、食事と食事の間に食べるデザート……、食事というよりは嗜好品のほうが近いかな?
とりあえず、お腹を満たすための食べ物じゃないんだよ」
「「「「へぇー」」」」
「とりあえず食べてみなよ~。
私たちはさっき味見したけど、やっぱ卵と牛乳が高級品だからすごく美味しくできたよ~」
「うん、高級プリンができたね!」
「ええ、非常にステキな味でした!」
料理を教わっているロナもすでに味見していたようだ。
それを聞いて、フランたちも我慢できず、プリンを食べ始めた。
「なにこれ超美味しいし!」
「冷たくてぷるぷるで甘くて美味しいのだー!」
「「やべーっす!!」」
フランたちにも大好評のようだ。
俺も食べてみよう。
「お、ほんとすっごい美味しいプリンだね!」
まさに高級プリンって感じの味わい!
「「「「おかわり!」」」」
「一人あと一個しかないからねー、今食べてもいいけど今日はそれで終わりだからねー」
「今は我慢して、夜にまた食べるってのもいいと思うよ~?」
「あと一個か……、超悩むし……」
「どうしたらいいのだ……、どうしたらいいのだ……」
結局フランとバハムルは誘惑に耐えて、夜まで我慢するようだ。
「「うめー!うめーっす!」」
クリスとレオの二人は我慢できずに今おかわりした。
きっと、夜フランとバハムルが食べてるのを見て、すっごく羨ましがるんだろうなぁ。
プリンを食べた後、俺たちは牛小屋を建てた。
ゴールデン・ガンジーもウ・コッケーと同じで自分たちでご飯はすませる。
草食らしく、百段たちと食べるものはほぼ同じみたいだ。
でも、果物よりは草を好むらしい。
ご飯を食べた後は世界樹の傍でだいたい過ごしている。
これはウ・コッケーもだ。
世界樹の傍は居心地がいいようだ。
なのでウ・コッケーと同じで、牛小屋は世界樹の近くにした。
食べるかどうかはわからないけど、ウ・コッケーの卵とゴールデン・ガンジーの牛乳のおかげでプリンが作れたからってことで、澪たちはウ・コッケー十二羽とゴールデン・ガンジー五頭にもプリンを作っていた。
ウ・コッケーはプリンに興味を示さず、食べなかった。
ゴールデン・ガンジーは不思議そうに匂いを嗅いだりした後、食べた。
口にあったようで、すっごく感動していた。
ちなみに百段たちにもプリンは好評だった。
これからしばらくはプリンブームになりそうだ。
夕食後、ウ・コッケーがプリンを食べなかったので余った十二個をみんなで食べた。
「今閃いたし。
プリン、めっちゃ使えるかもしれないし」
「使える?
食べ物で遊んだりしたらだめよ?」
「違うし、そうじゃないし。
今あっしはエルフの王女と交渉中なんだけど、すごく頑固でちょっと困ってたし。
でもプリンを一度食べさせればプリンの虜になって、一気に話が進むかもしれないし」
「えぇぇ……、プリンでそんなことになる?」
そんな大げさな……と俺は思ったけど、みんなは「なるほど!」って顔をしている。
「私たちも魔族の魔法研究のトップの女の人と交渉してるけど、自分がやりたい研究以外には手を貸す気はないとか言う人でねー。
ちょっと膠着状態だったけど、私もプリンで釣ってみようかな。
案外いけそうな気もするかも」
「女子はスイーツに弱いからね~。
いけちゃうかもね~!」
「そういうわけだから、プリンを何個か作って欲しいし。
できればあっしの分も……」
「あーっ!
ずるいのだ!
ボクの分も作って欲しいのだ!」
「「俺たちの分もっす!」」
「わかったわかった!
じゃあ明日たくさん作るからね!
だから落ち着きなさい」
「「「「はーい!」」」」
フランとドラゴンたちはもう澪と雫に逆らえないな。
元々胃袋をがっちりつかまれてた上に、さらにプリンまで。
一番弱いはずの人間が、ここでは一番立場が強い。
おもしろいなぁ。
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