天使族に認められました

 世界樹での生活を始めて数日。

 とりあえず無事に過ごせている。

 だけど、一つ問題がある。

 暇すぎる……。

 バハムルがいる時は賑やかだけど、一人になると暇がツライ……。

 ちなみにバハムルは今日は朝ご飯だけ食べてすぐ城に戻った。

 モリモリ食って「人化の魔法を覚えるのだー!」と叫びながら帰っていった。

 元気な子だ。

 バハムルがいないとやることないんだよなー。

 うーん、どうしよう。

 ゴロゴロ。

 暇だー。

 野良猫ってみんな何してんだろ。

 みんな暇と戦ってるんだろうか。

 うーん、何か作るか。

 山で黙々と作品を作り続ける芸術家とかいるし、そんな感じで。

 そういやここって、薫子さんの像がないな。

 薫子さんが降臨できる場所だし、作っとくか。

 適当に良さげな木を見つけて、世界樹の木の傍に座る。

 さーて、作りますか!

 って、一から作るのは初めてだなぁ。

 今持ってるミニサイズの像は手直ししただけだし。

 まぁいいか、誰かにあげるわけでもないしね。




 ふと顔を上げると、だいぶ日が傾いていた。

 かなり集中してたみたいだ。

 軽く背伸びをする。

「うーん、自分で言うのもなんだけど、かなりクオリティの高い物ができたな。

 でもなー、何か足りないというかなんというか……」

「確かにめっちゃ良い出来だと思うんだけど……、なんだろ。

 上品さが足りてないんじゃね?」

「上品さかー、うーん……。

 あれは仕草とか動きから出る上品さもあるからなぁ。

 木の像じゃ再現きつくない?」

「まー、確かにね。

 むしろ木の像でよくここまでの物を作ったって思うっしょー」

「だよね?

 しかもこれ初めて一から作った……、んん?」

「これで初めてかよ、あんたやばくね?」

 気づけば横に何かいた。

「えーっと?

 失礼ですがどちら様で?」

「あっし?フランだけど。

 てか気づくの遅くね?

 あんたが彫り始めたところからいたかんね?」

「まじすか」

 てか羽とか格好とかいかにも天使って感じなんだけど……。

「ん、どしたし?」

「いえ、こう言っては失礼かもしれないですけど、天使のイメージと違ったので」

「あーね。

 堅苦しそうなイメージだった?

 そのイメージであってるし。

 あっしは天使の中じゃちょい変わってるだけだかんね」

「あ、そうなんですね」

「あんたもタメ口でいいし。

 堅苦しいの肩凝んじゃん?」

「あー、うん。わかったよ。

 それで、なんでずっと黙って見てたの?

 声かけてくれればよかったのに」

「なんかめっちゃガチな顔だったし、一区切りつくまで待つかーって感じで?

 まさかずーっと集中するとか思わなかったけどねー」

「それはなんか、申し訳ないっす……。

 ちなみに何か用があるんだよね?」

「んー、別に用とかはないっつーか。

 上からは、世界樹になんか紛れ込んでるから追っ払ってこいって言われたけど、あんた別にここを荒らしたりしてないし?

 それにあっしがあんたを追い払えると思えないかんね。

 一昨日あんたキマイラを一発でぶっ倒してたじゃん、あれはないわー。

 あっしがどうこうできる相手じゃないわー」

「あー、その時から見てたんだ」

「まぁ、あんたはここを荒らす気はなさそうだし、あんたを追い払うのもできる気しないし、だったら仲良くしとくべきっしょー」

「そりゃまぁ、助かるけど……。

 それって上はOKしてるの?」

「それな!

 そのまま言っても納得するわけないし。

 どうすっかなーって思ってたんだけど、なんとかなるかもしんないし」

 そう言って薫子さんの像を指さした。

「え、これ?」

「そう、それ!

 こんなにいい感じの像で、しかもめっちゃ気持ちこもってんじゃん!

 これ見せればあの石頭どもも納得するっしょ!」

「気持ちこもってるとか見てわかるのか天使……。

 はずいなー」

「つーわけでそれ、ちょい借りてっていい?

 んでぱぱっと説得してくるし」

「それは俺としても助かるなぁ。

 ありがとう、よろしくお願いするね」

「任せときー!

 んじゃなー」

 フランさんは木像を抱えて飛んでいった。

 なーんか、すごくフランクなネーチャンって感じの天使だったなぁ。

 でも、考え方は柔軟でいろいろ融通もきく感じの人だし、俺としては助かるかな。

 あとはフランさんの説得がうまくいきますように。




 ちゅんちゅん。

「朝か……、んんんー!」

 一発背伸びをかます。

 うん、外に誰かいるね。

 今日はドラゴンなのか天使なのか、どっちかな。

「ぼーん!」

「は?」

 馬車を出たらいきなりフランさんに「ぼーん!」って言われました。

 なんだこれ。

「え、なになに?」

「おはようって言ってんの!」

「あー、あれおはようってことなの?」

 わっかんねーよ!

「どしたの、なんか疲れた顔してんね?」

「いや、なんでもないよ、おはよう。

 こんな朝早くにどうしたの?」

「えぇ~?そういうこと言う?

 あっし超がんばって説得してきたんですけど?」

「あ、はい、すいません。

 で、俺の扱いどうなったかな?」

「マジあっしに感謝しろし。

 ネゴシエーターフラン様に不可能なんてないし!」

「おおおお!

 じゃあ俺ここに住んでいいの?」

「このような管理者様への思いに満ち溢れた像は初めて見ました。

 ここまで管理者様を慕っている者が世界樹を荒らすなど考えられません。

 その者は問題ないでしょう。

 しかし、何事も「絶対」はありません。

 よってフラン、あなたは引き続きその者を監視しなさい。

 何かあれば報告するように、よろしいですね?

 ってな感じな」

「なにそれ、上司のモノマネ?」

「そ、似てるっしょ?」

「いや、俺その人知らないし」

「そうだっけ?

 とりまそういうわけだから。

 あっしが監視役の間は悪いことすんなし」

「悪いことなんかしないよ。

 ここは薫子さんが自分の像無しで降臨できる唯一の場所だからね。

 むしろ守っていかないと」

「カオルコサンって管理者様だっけ?

 マジかよ、ラヴかよー!」

「いや、そういうのじゃねーから!」

「はいはい。

 まー別にあっしには関係ないからどうでもいいし。

 あ、でもあっしの前でイチャつくのはやめろし。

 殺意の波動が発動するし」

「んなことしないから安心して。

 てか薫子さんはしばらく来ないんじゃないかな?」

「え、なんで?ケンカ?」

「そういうんじゃねーから!」

「あ、ラヴ関連で思い出したし。

 あれなんとかなんねーの?

 そこのペガサス三頭」

「なんとかって?」

「一日中イチャついててマジうざいし!

 しかも毎日だし!

 爆発しろし!

「あぁ……、それね。

 俺もそう思ったわ」

「あーあ……、虚しくなってきたし。

 あっしちょい寝るわ。

 あ、借りた木像は世界樹のとこに置いてあるから確認しとくし。

 じゃ、馬車借りるし」

 そう言って馬車に入っていった。

 フリーダムな人だなぁ。

 でも、堅苦しいタイプの天使よりはいいか。

 気楽でいいと思うことにしよう。


 というわけで、俺は無事に竜族と天使族から認められ、堂々と世界樹で暮らしていけることになった。

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