魔女と聖女はんぱないって!
王都を出発してからどのくらい経っただろうか
夜が明けてきたと同時に森が見えてきた。
薫子さんは二時間くらいって言ってたけど、もう二時間経ったのかな。
そういえば地球の一時間とガイアの一時間って同じなのかな。
一日も何時間なんだろう。
まぁ、こういうことはガイアの先輩に聞くのが早いか。
ということで、聞いてみた。
「ご都合主義な感じではあるんだけど、時間に関しては地球と同じっぽいかな」
「一日は二十四時間だって聞いてから、一時間が何秒か計ったもんね~、何度も」
「それで一時間は三千六百秒で、地球と同じっぽいってねってことになったよ」
「そっかそっか、それならわかりやすくていいね」
時間の感覚が地球と同じってのは地味に助かるなぁ。
「王都を出てから一時間ちょっとで森に着いたね。
軽いジョギングくらいのペースだったし、こんなもんかもね」
ん?
一時間ちょい?
「あれ?一時間ちょいって……、時間わかるの?」
「うん、わかるよ~。
ほらこれ」
そう言って雫さんが手の甲を見せてきた。
手の甲っていうより……、手首?
あっ!
「時計じゃん!腕時計してんじゃん!」
「そうだよ~、気づかなかったんだね~。
これ、就職祝いでお父さんに買ってもらった時計で、なんかいい時計みたいなんだ~。
仕組みは全然わかんないけど、壊れたりしなければずっと動き続けるって言ってたよ~」
「地球じゃ珍しくないけど、ガイアだと超オーバーテクノロジー!」
「だよね、ガイアにも時計はあるけどめっちゃ大きいもんね」
「見つかったら没収されちゃうかもだからずっと隠し持ってたよ~」
はー。
腕時計か、いいなぁ。
猫の俺でも携帯できるような時計があればいいんだけど……、今のガイアにはないんだろうなぁ……。
猫になったとはいえ、野良のような生活がしたいんじゃなくて飼い猫のような生活希望だったんだよなぁ。
うーん。
澪さんと雫さんを世界樹に送った後どうするか、この旅の間に考えておかないとだな。
「それにしてもジズーさん疲れてないの?
人間の軽いジョギングくらいの速さで一時間ちょっと休み無しで移動してたんだよ?
猫の体だと人間より疲れそうなものだけど」
「あー、俺は女神様の加護があるから全然大丈夫。
でもそっか、ジョギング一時間って普通は疲れるか。
ごめんね気が付かなくて、森には着いたし、森の中で休憩しよっか」
「「はーい」」
まずは水場を求めて森の中を歩く。
それから果物とかあれば確保しておきたいな。
それにしても……。
ダメだなー俺は。
一時間歩きっぱでも普通疲れるのに一時間ジョギングって……。
気づけよ俺!
自分は加護があるから気づきませんでしたーなんて、言い訳にもならない!
いざ追っ手に追いつかれたって時に疲労困憊ってことになっても最悪だ。
焦らず、冷静に――、無事に二人を世界樹に連れて行くんだ。
「ん~っと、あっちのほうに川がありそうかな?」
「そだね、あっちのほうっぽい」
「二人ともわかるの?
英雄の能力的なやつ?」
「ううん、そういうんじゃなくてなんとなくかな。
こっちにきてずっと訓練ばっかりやらされてたからね。
野外訓練で森によく入ってたし、なんとなくわかるようになったのかも」
「野営訓練とか嫌だったよね~。
女性への配慮なんて皆無だもんね~。
元日本の一般人としては超しんどかった~」
「なるほどね、異世界は優しくないなぁ」
「あ、川あった~!」
「座るのにちょうどいいスペースもあるし、ここで休憩しようか」
「じゃあ私水用意するね」
そう言って澪さんは背負ってた大きなリュックから中華鍋のようなものを取り出した。
「何が入ってるんだろうって思ってたけど、それが入ってたんだ」
「そうだよ、けっこう便利だからね。
いざって時は盾にも使えそうじゃない?
あとは城の厨房からパクってきた塩と胡椒。
それからパンだね。
お肉はその都度現地調達かなって思ったから持ってこなかったよ、重いしね」
「私の荷物は衣類とタオル代わりに使う布と木のお皿とお椀とスプーンとフォークだよ~。
フォークだけは銀製だけどね~!」
そういえば俺は荷物のこととか何も考えてなかったな。
「ごめん、荷物のこととか何も考えてなかったよ……、服とかさ……」
「あ、いいよいいよ気にしないで。
てかジズーさんって何気にけっこう中身も猫になっちゃってる感じなの?」
「えっ……?
いや、俺としてはそんなつもりはないんだけど……、どうなんだろう。
あ、それよりもさ。
肉は現地調達って言ってたけど、狩りをするってこと?」
「そうだよ?
さすがに野草とか果物だけじゃ体力持たないと思うし」
「えーっと、狩りをして解体して肉を確保するってことだよね?
できるの?
俺、猫だけど、モンスター狩って生肉がぶりといく勇気なかったよ」
「あー、私たちはこの一ヶ月、野営訓練で散々やらされたからね。
ガイアのモンスターって、地球で言うところの野生動物みたいなポジションでさ。
こっちには畜産って概念がないから、自分でモンスターを狩って食べるのは珍しくないのよ」
「はじめは吐きまくったよね~。
モンスターの解体なんて日本の一般人ができるわけないじゃんね~」
「はー……、なるほどー。
二人はたくましくなったんだねー。
俺も早く慣れなきゃなぁ」
「まぁ、こればっかりは慣れるしかないからね。
大丈夫だよ、やれなきゃ生きていけないようなことは嫌でもすぐ慣れるよ」
「猫の野生を開放するんだ~!」
野生……、開放されるかなぁ……。
「ところでその中華鍋で何するの?」
「これ?
これはね、こうやって水を入れて……っと」
ボッ!
突然中華鍋が火に包まれた。
「え?え?なにこれ!?」
「あ、ジズーさんはこういうわかりやすい魔法見るのって初めて?
一応沸騰させるんだよ、生水は怖いからね」
あ、魔法かー。
ビックリしたー……。
異世界恐るべし!
「で、ある程度沸騰させたら……っと」
カキーン!
「こうやって氷魔法で冷やすの」
「おー、すっげー……」
「で、毒があるかもしれないから、私の解毒魔法を水にかけて飲み水確保~!」
キラキラリーン!
中華鍋が、なんかありがたそうな光に包まれた。
「すごい!超すごい!
魔女と聖女はんぱないって!」
「それ大○!」
「○迫ネタ懐かしい!」
俺と女の子二人はそれぞれ別のことで盛り上がった。
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