脱出前夜
俺のアホな発言のせいで二人はちょっとマヌケな顔で固まってしまったが、すぐに我に返ってくれた。
初対面なのにちょっと調子に乗りすぎちゃったかな……、反省。
「えっと、ジズーさんはガイアで唯一の猫ってことは……。
女神様が猫を作り出したってことなの?」
「うーん、半分正解ってとこかな。
ついでだから俺の話もしとくね」
俺は病気で死んだことから魂だけ薫子さんに召喚されたこと、薫子さんに協力すると決めたこと、眷属になったこと、ここに来るまでのことを二人に話した。
「ちなみに、地球に帰れるのは君達二人だけなんだ。
あとの四人は地球の神様から返品拒否されちゃってね。
なんかかなり悪い人たちなんだってさ」
「ちょちょちょ!ジズーさんが元日本人ってことはさ!
そ、そ、その名前はもしかして――?」
「気になるとこそこかい!
まぁいいけどさ。
うん、お察しの通り、この名前は俺がジダンのこと大好きだから女神様につけてもらったんだ」
「お、お、おぉぉ、おぉ~!
ここにも同士が!
サッカー愛は世界を越えるのね!」
「ジダンいいよね!
かっこいいよね~!
私も大好きだよ~!」
「あ、雫さんもサッカー好きなの?」
「好きだよ~!
澪ちゃんほどの圧はないけどね~、愛情の深さは負けないよ~?」
「おー!そうなんだ!
同じ趣味の人に出会えるのは嬉しいなぁ」
っと、やばいやばい。
ついテンション上がっちゃったけど、こんなサッカー好きトークで盛り上がってる場合じゃなかった。
「つい嬉しくてテンション上がっちゃったけど、それどころじゃなかったね。
俺としては、一日でも早くここから抜け出したほうがいいって思ってる。
でも、町の外を夜移動するのは危険だ。
だから――。
澪さん、雫さん。
俺のこと信じてもらえるなら、明日夜明け前に俺と一緒にここから出ないか?」
「信じるよ。
私たちを騙そうとしてる感じはしないし。
どうせここには信じられると思える人は雫しかいないしね。
仮にジズーさんに騙されたとしても、自分が信じられると思った人に騙されたなら仕方がないかな。
私の見る目がなかったってことで、その時は諦めるよ」
そう言って澪さんはニカッと笑った。
綺麗な子なんだけど、なんか男前だなぁ。
「そうだね、私も信じる。
まだいろんな可能性があるから、ほんとならもっと時間をかけて考えるべきなんだろうけど、その時間が私たちにはないからね~。
ジズーさんからは良い人オーラも出てるし、何より……、信じたい」
そう言って雫さんもニッコリ笑う。
よかった、信じてもらえて。
やる気出てきた!
「ありがとう、信じてくれて。
あ、そうだ。
城に女神像ってないかな?
小さければ小さいほどいいんだけど。
理想としては、チェスの駒くらいのサイズ」
「どうだろう、大きな女神像ならあるけど。
明日までに探してみるよ。
小さい女神像なんて何に使うの?」
「俺が女神様の眷属になったってのは話したでしょ?
女神様は神界にいるんだけど、眷属と念話っていうテレパシーみたいなので話すことができるんだよ。
念話には神気ってのを消耗するらしくて、長時間の念話はできないだ。
でも、女神像の傍なら神気を消耗することなく念話ができるんだ。
小さな女神像でもいけるのかどうかはわかんないけど、試しておきたくてさ」
「なるほど~。
おっけ~、探してみるよ~」
「ありがとう。
それじゃ、明日夜明け前に出発ってことで。
俺は少し早めにここにいるようにするから、二人は準備をちゃんとして夜明け前までにここに来てね。
もし何かトラブルで動けそうにない事態に陥ったら、その時はムリ来なくていいから。
バレたり、何か勘付かれたりしたら元も子もないからね。
明日がダメでも、しばらくの間は毎日ここに来るようにするよ」
「わかった。
けど、ジズーさんはそれまでどこにいるの?」
「俺は一旦教会に戻って女神様に報告かな。
んでちょっと仮眠とったら戻ってくるよ」
「そっか、わかった。
明日はよろしくね、ジズーさん」
「ジズーさん、気をつけてね」
「ありがとう、それじゃまた明日」
二人に見送られながらそっと城を出た。
ふ~、ひとまず順調だな。
二人がいなくなったと気づかれたらすぐ追っ手がかかるだろうから、その前になんとしても王都は出たいなぁ。
王都から出さえすれば、外は草原や森。
追っ手が来ても魔女と聖女の能力があればなんとでもなりそうだ。
問題は返品拒否された四人がどうでるか……かなぁ。
普通に追っ手として襲ってくるとかもありえそうだ。
城の中じゃ手を出しづらくても、街の外なら人に見られることもなく襲えるしなぁ。
うーん。
幸い薫子さんの加護で怪我しない体だし、超素早くもなってるし、俺が盾になったり注意を引きつけたりすれば大丈夫かな?
ま、戦ったりするよりも、見つからないのが一番だ。
がんばって見つからないように逃げよう。
とかなんとか考えてたら教会に着いた。
『薫子さん、起きてる?』
『起きてるよ!
ジズーががんばってくれてる時に寝たりしないよ!』
『あ、うん。
そうだよね、ごめん』
『そもそも、神界って睡眠って概念がないからね。
ずっと起きてるから大丈夫だよ』
『え、そうなの?
薫子さん家?にベッドあったから神様も寝るんだと思ってたよ』
『あれは~……、ほら。
ゴロゴロする用……とか?』
『あ……、うん……。
なるほど……』
……。
『そ、そんなことより!
今のとこ順調だね!
二人もすんなり信じてくれたし!』
『うん、そうだね。
てか状況は把握してんだね。
神様的な力で外界のことを見ることができるってやつ?』
『そうだよ。
ジズーが魔女の子に胸元に抱きしめられてデレデレしてたのとかもちゃんと見てたよ』
『そっ、それは!
デレデレしてたとかじゃなくて!
不意に抱え上げられてビックリしただけっていうか!』
『そんな慌てなくてもいいんだよ?
猫になったとはいえ、ジズーも男なんだし?
大きな胸に包まれて、まるで天国だったんでしょ?』
『こ、言葉にトゲがあるなぁ……。
俺は、ガイアに唯一の猫として、そんなことで心乱れることなんてない!』
『何意味のわかんないこと言ってるの……』
『そ、そんなことより!
見てたんなら話が早いんだけど、小さな薫子さんの像でも念話の神気消耗はなくなるのかな?』
『心をこめて作られた像なら大きさとか関係ないの。
でも心がこめられてない、例えば商売用に作った像とかだね、そういうのだと神気は消耗しちゃうかな』
『なるほど……。
じゃあ、心がこもってない像を俺が心をこめながら手を加えたらどうなるかな?』
『それは……、たぶんいけると思う。
でも、手を加えるんなら、より美人に、よりスタイルよくしてよね?』
『心がこめられてるかどうかが大事なはずなのに、なんっつーリクエスト!』
『大事なことだよ!
くれぐれもよろしくね?
それよりもジズー、少し仮眠をとったほうがいいよ?
怪我をしない体だけど痛みがないわけじゃないし、健康な体だけど疲れないわけじゃない。
それに今日何も食べてないでしょ?
食事は大事だよ?
明日からはちゃんと食べるようにね』
『そっか、ご飯か。
すっかり忘れてたよ。
前はずっと点滴だったからなぁ……。
食事ってのを忘れてたよ』
『忘れちゃだめー!
ほんとしっかりね?
私心配だよー……。
とりあえずほら、少しでも寝な?
ちゃんと私が起こすから』
『あ、起こしてくれるの?
それじゃあちょっと寝させてもらおうかな』
気を抜いたらどっと疲れがでてきたような感じがする。
やっぱり、知らない世界に一人っていう状況は精神的に疲れるんだなぁ。
『今日はお疲れ様。
おやすみなさい』
『ありがとう、おやすみ~』
ガイアで最初の睡眠だ、いい夢見れるといいな。
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