異世界で猫に転生した俺は、理想の飼い猫生活を目指す

たも吉

プロローグ

神様のお願い

 吾輩は猫である。名前はまだない。


 というのは冗談で、名前はジズー。

 ちなみに猫だというのは冗談ではなく事実だ。

 魔女の眷属のような黒猫で、それなりに可愛らしい……はず。

「にゃー」

 鳴いてみる。

 うん、それなりには可愛いんじゃね?

 まぁ……、比較対象がいないのでなんとも言えないんだけどね。

 この星はガイアというらしいんだけど、ガイアには猫はいないらしい。

 つまり俺はオンリーワンキャット!

 素晴らしい!


 とまぁ、浮かれてばかりもいられない。

 俺はガイアの女神様から大事なミッションを受けている。

 いや、マジなんだよ?

 まぁ、猫の俺が女神様からミッションだなんて何言ってんだって気持ちはわからなくはないが。

 どうしてそういうことになったのか。

 それは、俺の前世の終わりから話さなければならない。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ピ――――!

 心電計が俺の心臓が止まったことを告げる。

 この世に生を受けて二十二年と数ヶ月、俺は人生を終えた。


 十歳の時に不治の病にかかり、約十二年間病気と闘った。

 結局病には勝てなかったが、俺は一生懸命に生きた。

 悔いがないわけじゃないけど、これ以上家族に負担をかけずにすむと思うとホッとした。

 今まで家族は俺中心の生活だったからなぁ。

 これからは自分たちのために生きてほしい。

 そして、できることなら家族のことを見守っていきたい。

 そう願っていたら、眩しい光に包まれた。




 眩しさが収まったので目を開けると、そこは部屋の中だった。

 ベッドの上だった。

 十二年お世話になった病院のベッドではなく、ダブルのわりと良さげなベッドだ。

 シーツや掛け布団は、女性が選びそうな可愛い感じの物だ。

「え……、ここ女性の部屋……?」

 周りを見回してみると、家具も女性が好みそうなデザインの物が揃っていた。

 そして、ベッドの下にはこっちに向かって土下座している人がいた。

「うぇ、人!?

 ごめんなさい!

 怪しいものではありません、気がついたらここにいたんです!」

「申し訳ありません!

 あなたをここに呼んだのは私です!

 あなたの都合を無視して召喚し、本当に申し訳ありません!」

「あ、なんだ……。

 そうでしたか、安心しまし……ん?

 召喚?」

 召喚って……、ゲームなんかでよくあるあの召喚かな?

 え、どういうこと?

 ……、あっ!

「なるほど、これ夢か!

 じゃあ俺まだ死んでないのか」

「いえ、これは夢じゃありません。

 あと言いにくいですけど……、あなたはお亡くなりになりました」

「え?

 そうなんですか?

 えーとじゃあ……、これは一体何なんでしょうか」

「あなたは亡くなったあと魂の状態になり、私はそんなあなたをこちらに召喚しました。

 ご自分の体を見ようとしてみて下さい。

 体がないのがおわかりになるはずです」

「えぇぇ?

 そんなわけ……ホントだー!」

「それからご自分の名前が思い出せないはずです。

 人は亡くなるとまず魂になると同時に名前の記憶が消えます。

 そして、魂を洗われて前世に関することを全てを消され、新たな生を受けます。

 私は魂が洗われる前のあなたをこちらにお呼び致しました」

「おぉぉ、確かに名前が思い出せない……。

 なるほど、現状は理解しました。

 それで、えーっと。

 あなたは一体……?」

「あ、申し遅れました!

 私はガイアという星の管理者、地球でいうところの女神のようなものです。

 名前はありませんので、お好きなように呼んでいただいて構いません」

「えっ、女神様ですか!?」

 秒で正座した。

 しかしベッドの上だった。

 やっべ、これ女神様のベッド?

 うわぁぁぁ、どうしよどうしよ。

 正座したまま超混乱した。

「えーっと、俺はどうして女神様に呼ばれたのでしょうか?」

「今私には協力者が必要なので召喚しました。

 もちろん断ってもらっても結構です。

 その場合は私が責任を持って、正規の手順通りに魂を洗い、次の生へとお送りします。

 ですが……、お話だけでも聞いていただけませんか?」

「……わかりました、お聞きします」

「ありがとうございます!

 まずは一年ほど前になるのですが……」


 一年ほど前、人間の国ニーゲン王国全域で大飢饉と疫病が発生。

 王は何も手を打たず放置した。

 当然、人口減少、生産力低下、食糧不足等諸々の問題がでてくるし、王族貴族への不満も爆発して治安も悪くなる。

 さすがに危機感を持った王は、諸々の問題を比較的豊かな隣国である魔国マゾックに攻めることで解決しようと考えた。

 さらに、大飢饉と疫病は魔族が王国に持ち込んだと嘘の情報を国民に流し、王族貴族への不満を魔族へと向けさせた。

 そして一ヶ月ほど前、疫病で低下した軍事力を補うために英雄継承の儀を行った。


「英雄継承の儀というのは何なのですか?」

「英雄継承の儀とは、過去の英雄の能力を継承する儀式のことです。

 ここで言う英雄というのは、千年ほど昔に人間と魔族の間で戦争があったのですが、その戦争で人間を滅亡から救った六人のことです。

 六人の英雄はそれぞれ勇者、剣聖、拳聖、弓聖、魔女、聖女と呼ばれ、今でも人間の王国で語り継がれています。

 英雄継承の儀を行うまでは良かったのですが、その際に禁忌と定めている行為を王国はしてしまいました」

「禁忌の行為とは?」

「ガイアの外からの強制召喚です。

 王国は英雄継承の儀を行おうとしましたが、能力を継承するためには強い精神力が必要です。

 王国には能力を継承できるほどの強い精神力を持った適合者がおらず、王国はガイアの外に適合者を求め、強制召喚をしてしまったのです。

 そして、召喚された六人は皆あなたのいた地球、それも日本の者なのです」

「えっ、そうなんですか?」

「はい。

 面目ないことに、私がそのことに気づいたのはついさっきなんです。

 私は彼らを地球に戻してあげたいと思っています。

 しかし私はガイアに直接介入することはできないのです。

 そこで、召喚された彼らと同じ地球の日本の人間で、人柄が良く、強い意志を持ち、清らかな魂を召喚し、協力を仰ごうと思いました。

 それがあなたなんです」

「人柄が良いだなんて照れる……じゃなくって!

 えっと……、はい。

 事情は理解しました」

「ようやく病から解放されたばかりのあなたにお願いするのは申し訳ないのですが、私に協力していただけませんか?」

 そう言ってまた頭を下げる神様。

 なんか、エライことになっちゃったなぁ。

 テレビかな?と思ったりもしたけど、俺死んでるしなぁ。

 うーん……、でも。

 この女神様は信じられる。

 誠実そうだしね。

「女神様、顔を上げてください。

 俺にできることがあれば協力します」

「本当ですか!?」

「はい、俺はずっと人に助けられて生きてきました。

 ですので、困ってる人?がいるなら俺もできることはしたいと思うんです」

「と、尊い……!

 ありがとうございます!」

「尊いて……。

 えっと、それで何をすればいいんですか?

 俺にできることだといいんですが」

「簡単に言いますと、私が召喚された六人を地球に戻すためには私が直接転移魔法で送るしかないのですが、私は世界樹という樹の周辺にしか降臨できません。

 ですので、大変お手数なのですが、あなたにガイアで転生……生まれ変わって頂き、彼らと接触し、そして彼らを世界樹まで連れてきてほしいのです。

 彼らは現在人間の王国の王都にある城にいます。

 王都から世界樹まで順調にいって二ヶ月と少しかかります。

 つまり私に協力するということは……、最低でも二ヶ月以上彼らを連れて旅をするということになります。

 しかも、おそらく平和的に城を出ることはできないでしょうから、その旅も逃避行ということになると思います」

 そう言って不安そうな顔で俺を見上げる女神様。

 くっ、なんてキレイな人なんだ!

 女性への耐性がない俺には眩しすぎる!

「なるほど、わかりました。

 協力したいとは思うのですが、当然俺はガイアのことは何もわかりません。

 そんな俺ができるんでしょうか?」

「その点でしたら問題ありません!

 私たち管理者は基本的には外界に直接干渉することはできませんが、例外として眷属とは接触できます。

 ですので、あの……、もしお嫌でなければですね……、私の眷属になって頂きたいなーと……」

「眷属ですか。

 よくはわかりませんが、神様の下僕のような感じですか?」

「ししし、下僕だなんてとんでもない!

 そんな破廉恥なことじゃないですよぉ!」

 顔を真赤にして慌てる女神様。

 なんだろう、かわいい。

「すみません。

 えーっと、その眷属になると、女神様の命令には絶対服従だとか、そういう類の強制的なものってありますか?」

「そういったことは一切ありません。

 私と精神的つながりを持ち、私を受け入れてくれる存在を眷属と呼んでいるんです」

「精神的つながり……受け入れる……」

「い、いやらしい意味じゃないですよ!?

 もっと健全な……そう!

 友達のようなものです!」

「友達……」

 友達て……、急にハードルが下がったなぁ。

「眷属はどこにいても私と念話……テレパシーのようなもので会話することができます。

 それにほんのごく一部ではありますが、私の力を使うことができます。

 ですので、眷属になって頂けたら私がいろいろサポートできると思います」

「なるほど。

 そういうことでしたらわかりました。

 眷属になって女神様に協力したいと思います」

「随分とあっさり……、なんて慈悲深い……。

 あなたは神か!」

「あなたが神だ!」

 女神様は涙をぼろぼろ流しながら祈りだした。

 最初に女神様と聞いて、全知全能の神みたいなイメージを持っちゃったけど、この女神様は親しみやすそうだ。

 せっかく眷属になるんだ、できることなら仲良くなりたいなと思う。

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