1.5 電気科の姫
授業が終わり、校舎から出てきた生徒たちが、遠巻きにこの尋問をながめる。
丸顔の少年が正座させられ、白い衣を着用した少女がその眼前に立ちはだかっている。
多くの生徒が目をそらすように速足で通りすぎる中、灰色の作業服姿の生徒がゆたかをちらりと見て、せきこむように息を吹いた後、口元を手でおさえる。
「笑った! あの人、笑った!」
ゆたかが正座から猛ダッシュする。清らに足を治療してもらったが、そちらの靴を持ってきておらず、片足だけサンダルで走りにくい。
「おもしろかったでしょ? 笑ってたでしょ? チーズとバーガーどっちがおもしろかったか手短に解説して。あの人を納得させて」
灰色の帽子を深くかぶり、足早に去ろうとする。
「実はケチャップもあるんだけど」
赤いハンカチも取り出してみせる。
その生徒は何度かせきこむ。
「ヒヤリ、ハットォ!」
異様な叫び声を上げ、作業服の集団がいっせいに走ってくる。
「危険防止! 排除せよ!」
灰色のかたまりがゆたかを取りまき、神輿のように持ち上げる。
「お祭りなの? 急に?」
「だまれ! われらの
「あかりちゃん? 女の子だったの?」
「無礼な。あんなかわいい男子がいるわけないだろう」
諦念科の生徒たちが止めに入るが、ゆたかは激しく空中に突き上げられ赤と黄のハンカチを振り回している。
「品質管理! エラー防止! ポカよけ!」
「やめて! そっちはゴミ箱! まだ食べられる! 食品廃棄反対!」
ゆたかを救出しようとする諦念科と作業服集団が押しあいをくりひろげる。
「いけませんな、深見先生。諦念科は業務管理がなってませんな」
「丸山先生」
丸々とした顔でやけに肌つやのいい電気科長・丸山先生が現れる。
「
「電気科の半世紀の歴史で初の女子生徒が彼女ですか。電気屋さんが諦念師と並ぶことはありません。女子にうかれているとドリルで手に穴を開けますよ」
深見先生が丸山先生をにらみつける。
「残念をあつかえるのが諦念師だけの時代は終わりました。深見先生はお若いのに時流が見えてないですな」
「アカリ! アカリ! アカリ!」
丸山先生の堂々とした態度に、電気科の男子たちが拳を突き上げてほえる。
さらに丸山先生は勢いにのって、電気科の生徒に呼びかける。
「科学の光は?」
両手の指を開き、顔の横にあてる。
「未来を照らす!」
電気科の生徒たちが同じポーズで唱和する。
灯里は帽子を目深にかぶり横を向いている。
「今年の諦念科は強力な優秀な生徒がそろっていますよ」
「それがあなたがたの最大の弱点だ。おわかりでないですかな」
丸山先生が顔を輝かせながら不敵に笑い、告げる。
「新入生の親睦を深めるために、久々にやりますか?」
「学科対抗戦、ですか?」
「いかにも」
両教師の視線が火花を散らす。
「マスタードはどうかな?」
地面に落とされたゆたかがチーズよりも色の濃いハンカチを取り出していたが、特に反応はなかった。
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