マオルーグと手紙・3
メモを片手にスカルグと共に城下町を散策していると、目立つ人だかりができていた。
心なしか人垣越しに眩い輝きが見えるような気がするが……
「あっ、マオルーグ! スカルグも!」
「ラグード王子……」
なんで光の魔法を使っている訳でもないのに輝いているんだあの男は?
そしてどうしてこちらを見るなり笑顔で手を振って近づいて……やめろ目立つ!
「む、そこにいるのは……」
「よう、猫かぶり姫のお供」
「マオルーグとスカルグだ、ホーリス王子」
今日は黄色い声援が何割か増しているように思えたが、もう一人美形がいたようだ。
この男は他人の名前を覚えぬのか……いちいちイラッとさせてくる。
出会いが出会いなせいもあり、この男相手に今更敬語にするつもりもない。
「それはそうと……お二人はいつの間に知り合われたのですか?」
「今そこでだ」
「そうだよ。驚いたね、マージェス王子にこんな弟さんがいたなんて! あっ、俺の方が年下なんだけどね!」
ああ、いろいろな意味で驚いたな。
心の中で同意をしているとラグード王子は興奮気味に言葉を続ける。
「俺は一人っ子だから兄弟が羨ましくて。そういう話をたくさん聞いてみたいんだ!」
「この王子ぐいぐい来て疲れるんだが」
前世から距離の近いヤツだったからな。
それにしても一人っ子とは妙に納得がいくような……まあ、我もそうなのだが。
「マージェスとは違う意味で苦手なタイプだ、コイツ……」
「ふふ、弟ができたと思えば良いのではないでしょうか」
「僕にこんな距離感の壊れた弟がいてたまるか」
渋面をするホーリスに対し、スカルグは兄の余裕なのか、穏やかに微笑んでいる。
きっとスカルグにとっての家族とは良いものなのだろうなとわかる表情だ。
(家族、か……魔王だった頃には考えもしなかった)
前世の親がどうとか覚えてもいない。
気づいたら我は“魔王”で……肉親の情に触れたのは、初めてで。
「父上、母上……」
そんなことを考えていたら、ぽろり、とつい零してしまった。
それがこの場でどれだけ迂闊なことだったか気づかずに。
「オイこいつ今父上母上って」
「そういえばマオルーグにも親御さんはいるんだよね!」
「なっ!?」
い、いるわ馬鹿者!
前世はともかく今は普通の人間なのだぞ!
そんな反論をする訳にもいかず……しかし今の失言で二人の興味が完全にこちらに向いてしまったようだ。
「どんな人なんだい? マオルーグみたいに目つきが鋭いのかいっ?」
「そうだそうだ、根掘り葉掘り聞いてやれ」
いや、気になるところはそこなのか?
そしてちゃっかり便乗しているホーリスが打って変わってイキイキしていて腹が立つ。
「急いでおりますので失礼……行くぞスカルグ!」
「わっ、ひ、引っ張らないでくださいっ」
これ以上おもちゃにされてなるものか、とスカルグの腕を掴むと無理矢理連れてこの場を去る。
「ああ、行っちゃった……」
「ちっ」
リンネに滞在する他国の王子はどいつもこいつも顔面偏差値は高いが個性がキツいとでも書いてやろうか。
まあ、両親への手紙でそんなことはしないがな……微妙に濁した表現にしておこう。
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