図書館の隅で・5

 再会の時は、同じく商店街にてほどなくして訪れた。


「アンタは……」

「あ、あら、ホーリスさん」


 いかん、顔が引き攣ってしまう。

 前回というか初対面で思いっきりやらかしただけに、どう振る舞っていいのか……ちょっと気まずい。


 で、でもまあ、一瞬のことだったし気のせいだと思ってくれているよな……?


「またぶりっこに戻ったのか、猫かぶり姫」

「ぶっ!?」


 思ってくれていなかった!

 俺はホーリスの手を引いて人家のない裏路地に連れ込んだ。


「……まさか物凄い形相で『お前かぁー!』なんてオーバー気味に指さしておいて、可憐でおしとやかなお姫様で通せるとでも思っていたのか?」

「ですよねー!」


 マオルーグが後ろで笑ってやがるので思わず足が滑って踏んづけてしまいましたがまあ事故事故。


「え、えーと……ホーリス、このことは……」

「アンタが周りにどう見られたいかなんて僕には関係ないし興味もない。別に言いふらしたりはしないさ」


 ほ、と安堵の溜息を吐いて胸を撫で下ろす。

 俺自身もどうでもいいといえばそうなんだが、いろいろと面倒でもあるんだよ。


「まあどうせリンネでも一部の人間にはとっくに知れた話なんだがな」

「マオ、一言余計!」


 もう無駄だと判断した俺はいつもの調子でマオルーグに吠える。

 ホーリスがくくっ、と喉を鳴らして笑った。


「……アンタ、そっちの方がいい」

「は?」

「無理して取り繕ってるより楽だろ。表情も自然で、ころころ変わって面白いしな」


 イケメンに笑いかけられて、ぼんっと顔に熱が集まる。

 くそう、王子達で少しは慣れたと思ったけどそんなことなかったイケメンずるい!


 うろたえる俺の百面相がお気に召したらしく、ホーリスは楽しそうに目を細めた。


「面白い姫がいる面白い国、か……気に入った」


 き、気に入った?

 そりゃあ自分の国を気に入って貰えるのは嬉しいけど……なんだろうこの底知れぬ嫌な予感は。


「居心地も良いし、しばらくリンネに留まることにした。いっそ定住するのも悪くないが」

「なんですとっ!?」


 同じ所に長くは留まらない、街から街の根無し草じゃなかったんかい!

……って本人の口から聞いたワケじゃないし、勝手に思ってただけだけどさ。


「これといって目的のある旅でもなかったしな。猫かぶり姫、アンタ見てると飽きなさそうだ」

「うっ……」


 そう言って距離を詰めるホーリスの目には見覚えがあった。

 あの時の聖職者の、好奇心に染まった瞳……


「それは結構なことだ」


 たじたじな俺をぐいっと押して、間に割って入ったのはマオルーグだった。


「なんだアンタ」

「護衛役のマオルーグ……コイツの本性を知る者だ」

「ふーん?」


 あれ、なんだろうこの火花。


「よろしく、な」

「……ふん」


 もしかしてマオ、対抗意識燃やしてる?

 キャラ被りとかそんなん気にするほど被ってなさげだと思うけどな。


 何はともあれ、リンネに旅人ホーリスという新しい住人が増えたのだった。

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