ぶらり冒険、夢紀行・6

「……しゃ、おい……」


 瞼に降り注ぐ陽の光と、誰かの声。

 ゆるやかに体が揺れる感覚は、声の主に揺すられているのだと気づく。


「勇者!」

「うおっ!? な、魔王……?」

「は?」


 慌てて跳ね起きた俺に、驚いて開かれた紅の眼。

 さっきまでの夢の中とよく似て、違う……こいつは俺の知る『マオルーグ』だ。


 そして机に突っ伏して寝ていた俺は、これまでの夢がほんのひと時の居眠りで見たものだと知る。


「我を『魔王』などと……勇者、何か妙な夢でも見たのか」

「あ、あはは……まあな」


 笑って誤魔化す俺を一瞥して溜息を吐いたマオルーグは、ハンカチを取り出して手渡してきた。

 もしかして、ヨダレ出てました?


「あー、妙に疲れた」

「……よほど変な夢だったのだな」

「まあ『魔王マオルーグ』だからなあ」

「それは……語呂が悪いな……」


 ああ、やっぱり。

 今のマオルーグだったらそう言うだろうなあ、と俺は笑う。


「だよなあ。なのに夢の中のお前ってば、それ指摘したら顔真っ赤なの」

「ぬ……いろいろ耐性がなかったのだ。勘弁してやれ」

「だな。今のお前が話せるヤツなの、人間界で生きてきて揉まれたからだもんな」


 俺たちは今の自分に生まれ変わって、勇者と魔王の物語のその後を見てきた。

 過去の自分達がその生き様を『そうするしかなかった』のも理解はできるが、今の自身の変化に対してもそれぞれ思うところがあるだろう。


「……まあ、いろいろあったが……今の人生もなかなか捨てたものではない」

「同感」

「何より気楽だ。何せ昔は王として、それなりにやることが多かったからな」

「え、魔王って仕事すんの?」

「貴様、まるで魔王が玉座でふんぞり返って勇者を待っていただけだと思っていたような口ぶりを……!」


 ごめん、ちょっと思ってた。

 さすがに心外だったらしいマオルーグが過去を彷彿とさせるような眼光で俺を睨んできた。


「ふん、まあ身一つでのこのこと我が城までやってくるだけの勇者の感覚ではそう思うのも無理はないか」

「あっ、言ったな!」


 ぎゃあぎゃあ言い合っていると、部屋の扉が控えめにノックされ、開かれる。


「マオルーグさん、そろそろユーシア様を……」


 そうして現れたファイは俺たちの様子を見て一瞬固まり、それからにっこりと笑って、


「今日も仲がいいですねー」

「「どこがだっ!」」


 そして、思わず声が揃って。


 勇者と魔王の第二の人生は、こんな感じでゆるゆると続いていくのだった。

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