スイーツ・リボン ・6

 さて、いよいよ『スイーツ・リボン』当日。

 リンネで迎えた初めてのそれは、リンネ式、リオナット式、カノド式と各国入り乱れるさまざまな形が見られた。


「マオ、はいこれ!」

「ぬっ……!」


 き、来たか、勇者チョコ……!

 紫色の包みを赤いリボンで結んだやや不器用なラッピングは確実に店で買ったものではないだろう。

 手作りか、手作りなのか……いや、だがよく考えれば中身はおっさんで勇者……複雑だ。


「ふ、ふん……わざわざ手作りなどよくやるものだ。どうせファイの奴に手伝わせたのだろうが」

「あ、バレた?」


 まったく、今回奴は大活躍だな。


「でも俺は去年教わって、今年は自力で作ったんだぞ」

「む、そうなのか」

「だからこれが俺の初めての手作り、かな」


 勇者の、初めて……だと……?


「マオたん、すげえ顔」

「ぬうっ!」

「心配しなくても、ちゃんと味見したぞ。味は保証する」


 どうやら勇者はチョコレートの出来を疑われていると思ったようで、少し不機嫌そうに口を尖らせる。

 拗ねた顔で斜め下からちらりと見上げるアングルは何だか知らんが心臓にくるからやめろ……!


「い、いいだろう、勇者の手作りチョコとやら、受けて立つ!」

「仰々しいなー」

「そっ、それでだ……受けて立つ以上、こちらも何か返さねばならぬのだろう?」

「それはひと月後の『ホワイト・リボン』の時でいいんだけど……」

「ええい良いから受け取れ!」


 言うが早いか、我は勇者にリボンで飾られた箱を押し付けた。

 きょとん、とリボンと同じ色をした紺碧の目が不思議そうにしばたたいた。


「……これ、」

「てっ、手作りではないぞ! 我は菓子づくりはできぬし、ファイの手を煩わせる訳にもいかぬからな! それから、ファイやスカルグからも貰ったからついでだついで!」


 そうだ、これはただのついでだ!

 我ながら誰に何の言い訳をしているのか自分でも苦しいのだが、口をついて出てしまう言葉は止められぬ。


「……ふっ」

「なっ!?」


 き、貴様、今笑ったか?


「いや悪い。今のは別になんというかその……楽しいなって。贈り贈られ、各国の形式が混ざってさ。ありがとな」


 勇者はそう言いながら我が渡した珊瑚色の小箱を胸元に引き寄せ、微笑んだ。


「でも今年はリオナットやカノドの形式をちゃんと宣伝できてなかったな。もっと大々的にやればみんなも参加しやすいし、対象が増える分経済も回るだろ」

「む……急にそれらしいことを言うな、貴様」

「楽しいことはみんなで楽しもう、そんな簡単な話だよ」


 簡単……そうだな、簡単な話だ。

 愛を告げるだの何だの、我は少々意識し過ぎ、身構え過ぎていたのかもしれぬな。


 意識し過ぎ……?


 誰が、何に、何を?


「き、気の所為だ!」

「何が!?」


 自分でもよくわからない衝動に駆られた我は、思わず貰ったチョコの包みを封じていたリボンを勢い良く引き抜き、中身を口に放り込んだ。


「あっ、お前そんな一口でっ……」

「………………うまい」

「そ、そうかよ」

「なんだこれは……不本意ながら美味いぞ……なんだこの悔しさは……」


 おっさんの手作りチョコレートは予想に反した美味さで、我は衝動の行き場をなくしてしまった。


「お前、何と戦ってんの……?」

「我にもよくわからぬ……美味いな……」

「お、おう」


 チョコは口内で融けてしまったが、微妙な気まずさがしばらくその場に残っていた。

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