“勇者”が生まれた日・3

 ラグード王子がファイを連れていってくれたおかげで、中庭でのんびり聖剣祭をやり過ごすことができそうだ。

 あの祭を嫌悪してるって訳じゃないんだけど、後世にだいぶ脚色されてなんかすごいことになってる自分のような何かを見るのは複雑な気分になるんだよ。


「おや、ユーシア姫」

「マージェス王子?」


 幽霊騒ぎの時には幽霊のコスプレをしてお忍び祭でも真っ先に仮装して、すっかりなんか仮装のイメージがついてたマージェス王子だけど、今日は普通の格好だ。


「イベント好きなユーシア姫が聖剣祭に外に出ないとは珍しいですね」

「マージェス王子こそ……こういうイベントは割と楽しむタイプだと思っておりましたわ」


 そう言うとマージェス王子は長い睫毛を伏せ、物憂げな息を吐いた。


「……私、魔王様派ですから……」

「あっ……」


 そして俺は察した。

 魔王の側近だった前世の記憶は残っていないはずなのに、マージェス王子は勇者物語で猛烈に魔王を推す魔王過激派なのだ。


「あっ、いえ、もちろん今の平和が勇者のお陰というのはわかっていますよ! ただ、勇者を讃える聖剣祭での魔王様の扱いを考えると、街に出るのは、その……」


 呼び捨てと様づけに本音が出ておりますよ、王子。

 そりゃあ、勇者のお祭りなんて面白くないよなあ。


「まあそれはそれとしてプレゼント交換は楽しいので好きなんですけどね」

「プレゼント交換? カノドでは贈り物を交換するんですの?」


 リオナットとはまた違った聖剣祭の風習に、少しだけ興味を引かれる。

 前に聞いた『嘘の日』の国ごとの違いもそうだけど、こういうのは知るとちょっと楽しかったりする。


「それぞれの家庭で夜に小さなパーティーを開いて、ごちそうやケーキを食べたりするんですよ」

「ごちそう……」


 ごくりと喉を鳴らしそうになり、慌てて咳払いで誤魔化す。

 ダメだぞー……俺は淑女、俺はプリンセス。


「そしてメインイベントにそれぞれ持ち寄ったプレゼントを交換する。円になって目を瞑って、隣の人に次々渡していって合図をしたら一斉に目を開けて、その時に持っていたものを貰えるんです」

「まあ、楽しそうですわね」

「ふふ、そうでしょう? このドキドキ感がいいんですよ」


 なるほど、プレゼントを貰うだけじゃなく持ち寄る物を考えるのも誰が自分のプレゼントを受け取るのかも楽しいイベントなのか……確かにマージェス王子はこういうの好きそうだ。


「ユーシア姫も、聖剣祭はあまりお好きではないのですか?」

「えっ、ええ……」

「ふふ。仲間ですね」


 悪戯っぽく微笑む美人の破壊力たるや、世の乙女ならばこれだけで恋に落ちてもおかしくないと思う……が、残念ながら俺の中身はおっさんなのだ。


 魔王語りで暴走してなきゃ綺麗な王子様なんだけどなー、なんて余所事みたいに考えていたその時。


「勇者ァ!」

「ひぇ!?」


 まったりした空気をぶち壊すマオルーグの無遠慮な声に俺は思わず肩を跳ねさせた。

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