城下町に幽霊は踊る・6

「わ、私が幽霊騒ぎの……そうですか、大変なご迷惑をおかけしてしまったのですね……」


 とりあえず俺の部屋で事のあらましを説明すると、しょぼん、とスカルグが項垂れた。

 迷惑っつっても、意識も記憶もないんじゃどうしようもないんだけどな。


「寝ぼけて歩き回っちゃうなんて、隊長さんも可愛いところがあるんですねえ?」

「うっ、うう、消えてなくなりたい……」


 申し訳無さと恥ずかしさに小さくなるスカルグに、妙に楽しそうにニコニコ笑顔を向けるマージェス王子。


(なあ、この二人前世じゃ犬猿の仲なんだっけ?)

(ああそうだ。どちらかというとダークマージが一方的に意識していた感じだが)


 今世でもちょっかいをかける側なのがマージェス王子……ダークマージの方らしい。

 まあ、今の二人はギスギスしてはいないみたい……かな?


「だが、困ったものだな。あの徘徊を毎夜やられては」

「確かに。いろいろ危ないもんなあ……そして自制しようにも本人の意識はナシ、か」

「……はい」


 こういうのってどうやったら止められるんだろうか……困り顔のスカルグに、何かしてやりたい気持ちにはなるけれど。


「物理的に止めるしかあるまい。確か貴様は騎士団寮暮らしだったな。今晩から我の部屋で眠れ」

「えっ!?」


 えっ?


 目を白黒させるスカルグ同様に、俺とマージェス王子も顔を見合わせた。


「出歩こうとすれば我が止めてやる。それなら問題なかろう」

「そ、それではマオルーグ殿に迷惑が……」

「なら毎晩寝る前にベッドに鎖で縛りつけておいてやろうか?」

「ひえっ」


 それはいろんな意味でアウトだから却下だ、魔王様。


「あ、そういうことなら私の部屋でもいいですよ? そのまま専属の護衛をお願いしたいですし」

「うっ」


 ああ、めちゃめちゃ困ってる……

 どっちの部屋でもスカルグのストレスが溜まりそうで、かといって俺の部屋って訳にもいかんからなあ……一応女の子だし。


「それが嫌ならせめてファイとでも同室になるんだな」

「ああ、師弟関係なんでしたっけ」


 出歩くのがなおせないなら、それが一番マシな気がする。


「弟子に迷惑をかけるのも……」

「あーもう、じゃあまた夜中にふらふら出歩いて幽霊呼ばわりされるのとどっちがいいんだよ!」

「そ、それはっ……少し考えさせてください!」


 あっ、逃げた……って、逃げたくもなるかこれ。


「あっ、待ってください隊長さーん」


 マージェス王子が楽しそうに追いかけていく……あれはオモチャを見つけた顔だな。

 二人が出ていって、俺とマオルーグの二人きりになった。


「……随分と面倒見がよろしいことで、魔王サマ?」

「やかましい。今度こそもう寝ろ」

「へーへー、そうさせてもらうわ」


 これにて、城下町を騒がす幽霊騒ぎは終了することになる。


……その後スカルグがどの選択肢をとったのか、それはまた別の話。

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