――むかしむかし、勇者と呼ばれる者がいました。


 その者はひと振りの剣を取り、仲間を喪いながらも魔王を倒し世界を救うと忽然と姿を消し、誰にも知られずにその生涯を終えました。


 そんな、強く、どこか孤独な者の次なる人生は……――



「ファイ、マオ、見てくれ! スカルグがくれた剣、すっげー扱いやすいぞ!」

「わ、わ、危ないですよユーシア様!」


 心配するな、怪我するような扱い方はしないからさ。

 その辺はマオルーグもわかっているようで、慌てるファイと違って落ち着いて見ている。


「……やはりこの剣筋、勇者……」

「力はないけどな。この剣は軽いからちょっとはそれっぽく動けるだろ」

「ふん、あまり無茶はするなよ。今の貴様は非力な小娘なのだからな」


 まー、心配してくれるなんて優しーい。


「スカルグさんもどうしてユーシア様に剣なんて……」

「力の使い道を誤り無闇に振り回すようなヤツじゃないとわかっているから、だろうな」

「……え?」


 さすが元上司、部下の考えるようなことはわかってますってか。

 その通り、スカルグにはそんな意味合いのことを言われて剣を手渡されたんだ。


「なんだろう、マオルーグさんを見ているとなんだか妙に悔しく……」

「むっ……」

「あ」


 それ、もしかして前世でアレがソレだったから……?


(そういやこいつ殺したの我だったな)

(言うなよ絶対言うなよ! いや言われても意味わからんだろうけど!)


 なんとなくアイコンタクト、なんとなく微妙に気まずくなる。


「……ユーシア様の護衛として、もっと精進しなくては!」

「あっ、そっち!?」

「えっ、そっち……とは?」


 確かにいきなり現れたヤツが颯爽と活躍して同じ護衛役に抜擢されたら焦りもするか。

 立場的にちょっと可哀想だったかな。


「えーと、ファイ……俺は今までお前に守られてきたし、お前のことは頼りにしてる。ただ、そこに新たにマオルーグが加わるだけだ。ファイにしかできないこと、マオルーグにしかできないこと、それぞれあるだろう。だから二人とも仲良くやって欲しい」

「ユーシア様……」


 ファイは護衛というよりお世話係って感じが強いが、実際剣の腕も立つ。

 か弱い美少女な俺としては傍にいてくれて安心だし、年頃も(ユーシア姫としては)近く、昔から比較的気軽に話せて気が楽なのだ。


「さすがおっさん、弁が立つな」

「やかましい」


 ニヤニヤ笑いやがって、うまく丸め込んだみたいな言い方するな。


「むしろマオルーグ、お前ファイをいじめるなよ?」

「誰がそんなことするか!」


 ふふん、お返しだ。


 悪戯っぽく笑ってやると、マオルーグが何故か突然固まってしまった。


「……そういう可愛い顔をするなと言うに……」


……なんか目ぇそらしてブツブツ言って、変なヤツだな。




 と、まあ、こんな感じで。


 勇者からお姫様に転生した俺は、前世とはまるで違う、騒がしくて退屈しない人生を送っている。

 トンデモ転生同窓会はいろいろと戸惑うこともあるけど、なんだかんだ楽しい毎日だ。


 世界を救った強く寂しい伝説の勇者の来世は、賑やかドタバタしながらのゆるい姫様ライフでしたとさ……なんてね。




転生勇姫・おしまい。

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