梅田迷宮編7 満月
夜のニューヨーク、グリーンウッド墓地に吸血鬼の隠れ家があった。
ワオーンと遠くで遠吠えが聞こえる。
南港吸血鬼ヴィールヒは無事に生きた河童を持ち帰っていた。
始祖吸血鬼の女、ネーバ【空】が隠れ家地下室で迎える。
「よくぞ持ち帰った。」
「日本では侍と雷神の邪魔が入りました。」
「うむ、タルナーダからメールが来ておる。
どれ早速頂こう。」
ネーバが河童に噛みつく。
河童の目は赤くなり、ネーバの皮膚が一瞬だけ緑色に変わる。
始祖吸血鬼ネーバは自分の腕にナイフを突き立てた。
ナイフが刃こぼれする。
河童の強靭な皮膚を手に入れたのだ。
ヴィールヒもナイフで自傷するが傷付かない。
「次は鬼だな。」
■
狼男は吸血鬼の天敵である。
現代では、吸血鬼、狼男共に、人間を襲うことは即破滅へ繋がる。
時が経つに連れ、人間との力関係はすっかり逆転し、
弱者となっていた。
河童や鬼も同様、しょせん地球の支配者は人間だった。
時に熾烈な争いが人間をさらに鍛えた。
妖怪の中にも凶暴性や憎しみが薄れ、すっかり無くなった者も居る。
ただただ吸血衝動や満月による暴走に悩む、
苦難の日々を過ごす者が居る。
ある狼男がヨーロッパであらかた吸血鬼を食らい尽くし、
ニューヨークへやってきていた。
そして吸血鬼の匂いを追って、このグリーンウッド墓地へたどり着き、
満月の夜を待った。
狼男はその満月の夜にグリーンウッド墓地の敷地内で、
黒いポンチョの人物を見つけた。
黒ポンチョから吸血鬼の匂いはしない、が
「前菜代わりに食らおう。」
狼男が人の姿から巨狼へ変わり、
満月を見つめる黒ポンチョに後ろから襲いかかる。
黒ポンチョ伏姫の影が、満月の浅い角度に照らされて大きく揺らめく。
一瞬、獣の姿にも見えた。
するとその影から巨狼に勝る巨犬が現れた。
巨犬は巨狼の顔を上から叩きつける。
ドーンと大きな地響きが轟いた。
そのまま押さえつけ首から下を食らった。
巨犬は巨狼の首をくわえ、伏姫に見せる。
伏姫が巨狼の顔を一撫ですると安らかな男の首となった。
首を受け取り、墓地へ埋葬した。
■
満月の夜、
隠れ家近くで大きな地響きを聞いたネーバとヴィールヒは狼男襲来を予感した。
「ヴィールヒよ。
この河童をおとりとし、脱出する。
タルナーダの応援に私も行こう。」
赤目河童が玄関から飛び出して行く。
同時に無数のコウモリが窓から飛び去って行った。
赤目河童が墓地中を走り回っていると、
建物越しにお座りしている犬の影を見つけた。
赤目河童が走り寄り、建物の角を曲がる。
予想外に大きな犬が河童を見下ろした。
巨犬が河童を叩きつける。
ドーンと今夜2度目の地響きが起きた。
叩きつけられた河童の胸には、
狼男の墓標代わりに立てた杭が突き刺さっていた。
「月に変わってお仕置きよ」
赤目河童は灰となった。
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