大阪梅地下編3 剣士犬塚と村雨

侍とは死ぬこととみつけたり。


犬神真人は常にその気持ちで生きてきた。

現代では命がけで戦うことなど無いが、

道場での修練で、技と精神力は鍛えてある。


「だあ」

赤ちゃんが居なければ、このまま河童どもと死闘を繰り広げていただろう。

しかし、赤ちゃんを道連れ、見殺しにはできなかった。


とにかく地下から脱出し、最寄りの曽根崎警察署にでも駆け込む。

犬神真人はそう考えた。


「どこやここは」

さっきまで必死に逃げていたせいで現在地が分からない。

ふとあたりを見回すと遠くに噴水が見える。


泉の広場、、、


確かすぐ近くに階段があったはず。

近寄って行こうとしたが、そこに異様な影がうろついていた。


どうやら河童は噴水の水溜まりから湧いて来ていたのだ。

わらわらと湧いて出る河童達だが、誰かと戦っている。


その男はだんだら模様の羽織を着ていた。

男は日本刀で河童達を切り捨てている。

無駄のない動きだった。

簡単に切れている事から、単なる日本刀ではないのだろう。


男は複数の河童に囲まれているが、危なげなく立ち回っている。

飛び掛かってきた河童は剣の間合いに入った瞬間、切り落とされ。

首を伸ばしての噛みつきも、余裕をもって頭を切り落とす。


刀の間合いの分、有利なのだ。

普通の刃では切れないはずが、切れるのだから、、、


その時、噴水にいた河童が口から水を勢い良く吐いた。

野球のボールほどの大きさ、速度はゾッとするほど、

時速200KM以上出ていそうだ。


男がその水弾を切り払うと、霧となった。


無限に湧いてくる河童、余裕をもって戦う男。

犬神真人は男に声をかけようか、隠れたまま見守っていようか迷っていた。


「その赤子は伏姫と言う、隠れていろ」

男がそう言った。犬神真人は従うことにした。


男は河童を切り捨てるテンポを上げながら、噴水に近づいていく。

近づくにつれて、その速度は人間の全力、限界に見えた。

重心が安定している。かなりの達人。

ついには河童を全滅させて、噴水の溜め池に足を入れる。


そして池の水を切った。


「姫、行ってまいります」

男は池の中に沈んでいった。


犬神真人は噴水から河童が湧かなくなったので、

泉の広場近くの階段から地上へ出る事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る