第38話 変態認定(愛花2泊目)
夜、無事に授業を終え、アパートへの岐路に着いていた。
今日はさらに、新たに入校してきた生徒2人を、俺が受け持つことが決まった。
これから講師としての仕事も充実してくるな……そんなワクワクとした気持ちでルンルン気分で歩いていると、3歩ほど後ろから、俺の後をずっとつけてくる、トコトコとした足音があった。
俺はついに我慢出来ずに、ため息をついて後ろを振り返る。
「いつまで声かけずに付いてくるんだよ……」
「大地が声かけないのが悪い」
「いや、熱心に勉強してたから……」
愛花は俺の英語の授業が終わり、桜井先生の数学の授業を受けた後、終了時間まで自主室で熱心に勉強をしていた。
俺は受け持っていた授業が、早めに終わったこともあり、大宮さんに先に帰っていいと言われ、そのまま先に塾を後にした。
塾を出る際に、愛花に声を掛けようか迷ったのだが、熱心に勉強している様子だったので、邪魔しては悪いと思い、声を掛けなかったのだ。
その後、慌てて愛花は俺の後を追ってきたらしく、俺の姿を見つけ、ストーカーのように付いてきたという話で今に至る。
愛花は、一生懸命俺の後を走って追ってきたようで、汗をダラダラと掻いていて、制服のブラウスが湿っているように見える。
「大地のバカ」
愛花は、むくれっ面で、不機嫌そうにしながらボゾっとそう言った。
「悪かったって」
「家行ったら。声かけなかった罰」
愛花は俺の方へ近づいてきてそう言い残すと、トコトコと先を歩いて行ってしまう。ご褒美とか罰とか、色々と注文が多い奴だ全く。
アパートに無事到着して、結局また愛花を家に上げてしまった。
先週の俺の意気込みは何だったのか?
俺は部屋着に着替え、ゆっくりと机の前に座りこむ。
「先にシャワー浴びてきていいぞ」
俺がそう言うが、愛花からの返事はない、不思議に思い、返事のない愛花の方を振り向いた。その時だ、急に視界が真っ暗になり、鋭い衝撃が俺の身体にのしかかった。
俺はそのまま反動で倒れ込み、そのぶつかった物を抱え込む。
「いって……!」
頭を軽く打ち。片手で後頭部を押さえる。
痛みも徐々に和らいできたところで目を開けた。
そこには、愛花が俺の首に両腕をギュっと巻き付けて、俺に抱き付いて来ていた。
「あっぶねぇな。何してんだお前」
「罰」
「えっ……?」
愛花は一言だけそう言い放つ。
「呼びに来なかった罰。私の質問に答えて」
どうやらこれが、愛花が先ほど言っていた罰らしい。
「わかったよ」
俺は観念してに頷いた。すると、愛花は顔を俺の体から離して少し頬を赤らめている。恥ずかそうにキョロキョロとしていたが、覚悟を決めたらしく、目を瞑って、思いっきりまた抱き付いてきた。愛花の香りと汗の匂いが漂ってくる。
「私……汗くさい?」
「えっ?」
「いいから答える」
俺は、もう一度確認するようにクンクンと愛花の首元辺りを嗅いだ。愛花の甘酸っぱい汗の匂いが感じられる。しかし、何故かわからないが、嫌な臭いだとは感じなかった。
「まあ、匂うな」
「そっか」
俺がそう答えると、ボソっとそう呟いて、質問を続ける。。
「じゃあ、その匂い……嫌い?」
「はっ?」
「だから、私の汗の匂い、嫌い?」
恥ずかしそうにしながら、愛花が再び質問を投げかけてきた。
俺は念のため、もう一度首元辺りの匂いを確認する。
愛花の女の子の甘い匂いと、共に香ってくる甘酸っぱい愛花の汗の匂いが、鼻を刺激する。だが、先ほど感じたように嫌いな臭いではなく。何故か、俺の体の中に眠っている何かを刺激するような、そんな匂いにも感じられた。
俺は度惑いながらも、質問への答えを口にする。
「嫌いでは……ない」
「そっか……」
今度は、何か納得したようなトーンで愛花がボソっと言った後、フフっと笑う。
「大地は汗フェチ」
「なっ……そんなわけっ」
「本当に? でもさっきから、私の匂いクンカクンカ嗅いでるの分かってるからね?」
「そ……それは……」
確かに何度も確認して匂いを嗅いでいた。さらに言えば、今の今まで、ずっと愛花の汗の匂いを嗅いでた自分がいるので、何も言い返せない。俺が返答に困っていると、愛花がとどめの一撃を指してきた。
「大地はJKの汗の匂いて興奮しちゃう変態」
俺のライフは完全にゼロになり、ノックアウトされた。もうだめだ。変態犯罪者決定だった。
「ふふっ……」
だが、なぜか愛花は、満足そうな表情を浮かべて、俺の前に向き直る。
「そんなに現役JKの私が好きなら、今度からはもっと色々なものを堪能させてあげるね」
そう言い残して、愛花はすっと立ち上り、シャワーがある洗面所の方へと足を運んでいった。
俺はただその姿を、絶望感満載の表情で見つめているしかなかった。
◇
シャワーを浴びて寝る支度を整え、布団を一枚だけ敷いた俺と愛花は、先週と同じ体制で俺の胸にコトンと頭を下ろしていた。
俺が頭を撫でていると、スっと愛花が俺の肩辺りまで頭を持ってきた。
「どうした?」
俺が愛花の様子を伺うと、愛花はムクっと顔を俺の方に向けてニヤリとした笑みを浮かべながら質問を投げかけてきた。
「お風呂上りの私の匂いはどう?」
「……」
俺は再び愛花の匂いをクンクンと嗅いだ。もうどうなっても知らね。変態犯罪者にでも何でもなってしまえ。そんな投げやりな気持ちで匂いを嗅いでいく。
「うん、いい匂いだぞ」
俺がそう答えると、愛花はさらに畳みかけてくる。
「じゃあ、汗の匂いと今の匂いどっちが好き?」
「それはっ……ノーコメントで」
「へぇ~」
俺がそう言ってそっぽを向くと、愛花は納得したのか再び俺の胸の辺りまで顔を下ろした。
「やっぱり、JKの匂いなら何でも興奮しちゃう大地は変態だね」
「うるせ、なんとでもいってろ」
俺はそんな捨て台詞と吐き、ガシっと愛花の頭を撫でながら眠りについていったのであった。
やっぱり俺って、変態なのかな……!?
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