第75話 俺の行く末

 「それで、話って何ですか?」


 萩先生と部室から移動し、場所は生徒指導室に連れてこられ、対面で座る。

 傍から見れば俺が何か悪い事をしている風に見えるかもしれないが、何もしてないので勘弁してほしい。


 「――――話というのは、今回のテストでも前回からもずっと言われ続けてきたんだが、吉条は就職だよな?」


 「そうですけど」


 「それを他の先生が変更できないかと私に言われるんだ。吉条は今回のテストで一位、その前までもずっと清水に次ぐ二位を取り続けてきただろ?」


 「……進学に変えるつもりはないか?って事ですか?」


 萩先生の言葉から察する事が出来たのだが、要するに順位が上にいる俺が進学すれば、学校の評判を少しでも上げる為にも必要なことなのかもしれない。

 俺の予想は的中のようで萩先生は首肯する。


 「そうなんだ。学校側からしても二位にいるお前が大学に進学しないのは勿体ないのではないかという話が来てるんだよ」


 「萩先生や学校側から言いたいことも分かりますけど、俺の家そんなにお金はないですし」


 「そこは奨学金を借りることも出来る。それは、私の経験上でも働きながら返していけることは知っている」


 「別に大学に入って何かしたいと言うことも無いですし」


 俺の一番大学に行く必要が無いと思っているのはこれが理由だ。意味も無く借金をしてまで大学に行く必要性が見当たらないのだ。何かしら将来したいことがあり、大学に出るのであればまだしも、ただ漠然と生きている俺にとって大学に行くこだわりは無い。


 「もしかしたら、大学に入れば夢が見つかるかもしれないぞ?」


 「……夢ですか」


 夢について、海の家に行く際に話した時も少なからず感じたことではあった。何かしら夢があり、その為に頑張って生きていく人間が凄いと、憧れを感じたこともある。だが、大学でそれが見つかるかと言われれば、それは分からないのだ。はっきり言って見つからない可能性の方が高いと言えるかもしれない。


 「そうだ。夢が見つかれば大学に行っておいた方が可能性の幅が広がるしな」


 「萩先生は俺が進学した方が良いと思ってるんですか?」


 「……私は基本生徒の進路について無理な選択をしようとしていない限り口は挟むつもりは一切ない。吉条が決めれば良いと思っているのが教師としての私の言葉だ。ただ、一個人として言わせてもらえば、頭の良い吉条がただ漠然と働くのであれば、もしかしたら何かしらやりたいことが見つかるかもしれない大学に入った方が良いのかもしれないと私は思っている」


 「……そうですね」


 正直、大学に行くと言う選択肢を今まで考えたことが無かったので、考える余地は一応あるのだが……うーん。高いんだよな。


 「まあ、今は漠然としているかもしれないが、何かしらやりたいことがあるのであれば就職という道でも最終的には誰も文句は言わないさ。ただ、吉条には大学に行くと言う選択肢もあると言うことだけ覚えておいてほしい。話は以上だ」


 「ちょっと考えてみます。それで、丁度ついでに一つ聞きたいんですけど」


 「どうかしたか?」


 「萩先生は文実の担当の先生ですよね?」


 「そうだが、どうかしたのか?」


 進路の事も決めなければならないが、今は怪盗Xを見つけることの方が先決だ。正直、漢城には借りがあり過ぎるのでここできちんと清算しておきたい。


 「花飾りの件ってどうなったんですか?」


 俺が花飾りという言葉を呟けば、萩先生は椅子にもたれ掛かり、ため息を吐く。


 「……それは、確かに少し困っている。体育祭の時も少しペンキが無くなると言う騒動もあれば、今回は花飾り。本当に面倒だ」


 「面倒なのは承知ですけど、文実としてどう対処してるのかなって」


 「もう一度作り直しているよ。ペンキとは違ってやり直しは効くからな。今の所これ以上問題にならなければ、職員会議に出すことは無いと思うが、どうして消えたのかは未だ分かってない状況だよ」


 まあ、そう簡単には見つからないとは思っていたが、もう一度やり直しか。そして、それでも無くなれば職員会議にも話題になると言う事。怪盗Xがこれ以上盗みを働けば、見つかった時が大問題になりそうなのだが、それを考慮していないのか?それとも、これ以上何かしらする事はしないのか?


 はっきりと分かっていないが、一番気になるのは一週間後のペナルティ。まあ、こればっかりは来週にならないと分からない。


 「ありがとうございました。それじゃあ、失礼します」


 生徒指導室を出る際に、一応一度お辞儀してから出て部室へと戻れば、南澤、寺垣、泉の三人が机に怪盗Xからの挑戦状を置いて睨めっこしていた。


 「……何やってんの?」


 「あ、吉条。今回こそは見逃さないように何かヒントが無いのかと思って探ってたの。だけど、全然見つからないわ」


 「うーん。怪盗Xは誰なんですかね?この学校の人だとは思いますけど」


 「それと、文実の人だよね。それ以外はヒントなんて無いけど」


 「今探しても見つかることなんて何もないだろ。もしかしたら一週間後のヒントで分かることがあるんじゃないのか?」


 「私達にペナルティってやつね。何をするのか知らないけど」


 確かに何をするのかは知らんが、こいつは何かをするつもりなのだろうか?まあ、今考えても分かるわけないか。


 一週間後。


 怪盗Xからの紙が届いてから一週間が経ち、今日何かしらのペナルティがあるらしいが、一体何なんだろうな。

 重い足取りで学校の上履きに履き替え、教室へと行こうと思ったのだが、廊下で凄い賑わいを見せている。


 ……何なのこれ。


 今日ってお祭りですか?

 いや、文実までまだまだ時間はある筈だ。タイムスリップなんてする筈もないし。


 「大変よ!吉条!」


 廊下で賑わいを見せている中、するりと抜けていき、教室に入ろうと思ったのだが、背後から切羽詰まった南澤の声が聞こえた。


 「どうした?」


 「どうしたじゃないわよ!これ見てないの!?」


 背後から走っていたのか、肩で息をしている南澤からの紙を受け取る。

 また、怪盗Xか?


 『寺垣真由美は知らない男性と夜の繁華街をうろついていた』


 一枚の紙と写真が添えられた紙を見て、俺は思わず手に持った紙を落としてしまうのだった。

 

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