第3話 まともに会話できません

『無詠唱』……文字通り詠唱することなく魔法名のみで魔法を発動できるスキル。これがあればどんな強力な魔法も詠唱なしでバンバン使える神スキル。一流魔法使いの中でもごく限られた者しか使うことができないほどの難易度を誇る。あまりに極めすぎると逆に不便になるかもしれない。




「ようやく着いたか」


 結局一睡もできずに朝を迎えた俺はそのまま歩き続け、最初の村に到着したのであった。


 村はいかにも農耕中心といった感じで牛や豚などの家畜が多く、村人の多くは畑に出て作業をしていた。俺は村の中を慎重に歩く。今の俺は全身が兵器みたいなもので、足の小指をタンスの角にぶつけたらそのまま家ごと倒壊しそうな気がする。人に肩でもぶつけようものなら地の果てまで吹っ飛ばしてしまうかもしれない。あるいは粉々になるか。どちらにせよ大惨事である。


「ん? 何だ?」


 村の中央まで来ると人だかりができており、何やらしきりと話し合っている。俺はそっと近づき話の内容を聞く。


「間違いなくゴブリンの仕業ですよ!」

「これ以上家畜に被害が出てはたまりません。早々に退治するべきです!」

「そうは言っても誰が……」


 そんな話がされている。俺は話に加わることにした。


「あの……どうかしましたか?」

「おや? 旅の方かね?」


 人だかりの中で一番年長らしき男性が返事を返してくる。どうやら村長のようだ。


「はい。旅の途中で……」

「おや? それは女神のペンダントではありませんか! それではあなたが勇者殿ですか!」


 ペンダントを見るなり村長は声を荒げた。ああ、そういえばこれを見せれば、とか言われたな。しかしそれでいきなり勇者認定されるのか。なんという世界だ。


「勇者殿。折り入ってお願いがあります」

「な、なんでしょうか?」

「実はここのところ家畜が行方不明になる事件が多発していまして」

「はい」

「それで村の者総出で調べたところ近くに巣があるゴブリンの仕業だと判明したのです。ですが我々は只の村人。ゴブリンを退治に行ったところで返り討ちにあうのが関の山です」

「それはそうかもしれませんね」

「なので是非とも勇者殿に退治していただけないかと……」


 ゴブリンとは亜人の一種か。彼らは徒党を組むらしいので村人が行っても厳しいかもしれない。まあ人助けも勇者の役目ってわけか。でも折角だからこちらも見返りを要求してみよう。いい加減腹ペコなのだ。


「わかりました。引き受けましょう!」

「おお! 本当ですか!?」

「その代わり一つ、お願いしたいことがあるん『デス』が……」


 俺がそう言った瞬間、村長は膝から崩れ落ち地面に突っ伏してしまった。


「そ、村長!?」

「大変だ! 村長が息してないぞ!」


 慌てふためく村人たち。一体、何が起きた? 嫌な予感がする。俺はそっとステータス画面を開き魔法一覧を見てみる。


『デス』……話しかけている者1体の命を奪う魔法。聞こえていない者や言葉が通じない者には無効。


(あのクソ女神……)


 ステータス画面を閉じた俺は急いで心臓マッサージの指示を出した。幸い、3分後に村長は息を吹き返した。


「いやー、三途の川が見えました。死んだ婆さんがコッチ来いしてましたよ」

「いや、大事に至らなくて良かったで……良かったっすね」


 村長はあっけらかんとしているがこっちは罪悪感タップリである。


「いやいや、ワシが死なずに済んだのも女神様のご加護かもしれませんな! ハハハ!」


 いいえ、死にそうになったのは女神の加護のせいです、とは言えない。結局このゴタゴタのせいで見返りを要求し損ねたのであった。




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女神への質問コーナー

Q ところで一番上のスキル解説は誰がしているんですか?


A 私です。異世界で分からないことがあると大変ですからね。異世界の人とコミュニケーションは取れているでしょうか?女神はとっても心配です。

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