チート能力をもらいすぎて、まともに冒険できません。

熱物鍋敷

プロローグ 過保護な女神と不幸な少年

「なんだ? ここは」


 俺は気づいたらそこにいた。何にも無い白い部屋。所々霞かかっていてよく見えない。ただ空気は妙に清々しく現実とは思えない印象を受けた。


「夢……か?」


 直前まで何をしていたのか、今一つ思い出せない。学校からの帰りだったか、夕飯の最中だったか、はたまたベッドで寝たところだったか?

 そんなことを考えていたら突然、まばゆい光に包まれた。その光は5秒ほどで収まり、目の前に女性が現れた。


「こんにちは」


 女性はニコリと挨拶をしてくる。丁寧なお辞儀。思わずつられて挨拶をし返す。状況は相変わらずよくわからない。だが美人ではある。悪い気はしない。


「ええと……どなたですか?」

「私は女神オーヴァプロと申します。あなたの住む世界とは異なる世界の管理を任されています」


 女神はそう言うともう一度頭を下げてくる。異なる世界。つまり別世界の神様というわけか。


「その女神さまが俺に何の用ですか?」

「はい。実はあなたに私が管理する世界を救って頂きたくお願いに参りました」

「は? 俺に?」


 話が突然すぎる。何故に俺が別の世界を救いに行かなければならないのか。


「なんで俺なんですか? 別に他の人でもいいんじゃないですか?」

「いいえ、あなたが一番なんです。あなたが一番、私の加護を受けることができるんです」

「加護?」

「はい。普通の人がいきなり異世界に行って戦えと言われても困りますよね?」


 そりゃそうだ。俺は武道の経験もなければ喧嘩が強いわけでもない。いきなり世界を救えだ戦えだ言われても困る。


「そこで私の加護です。私の加護を『ありったけ』受ければ、それはもう超強い状態で異世界に行けますよ! 命の心配もいりません!」

「はあ……。それで、その加護を一番強く受けられるのが俺ってわけですか」

「そうです! もし世界を救って頂けたら、何でも一つだけ願いを叶えて差し上げます」


 女神の弁に熱が入る。なんでも……か。異世界に行って活躍して、おまけに願い事まで叶う。命の心配もないと言う。そう悪い話ではない。普段の生活にも飽き飽きしていたところだ。

 俺はちらりと女神のほうを見た。女神は困り顔で手を組み祈りのポーズでこちらを見ている。そんな顔で見つめられると困る。


「わかりました。やります」

「本当ですか!?」


 女神の顔がパッと明るくなる。


「で、具体的に何をすればいいんですか?」

「はい。ちょっと待ってくださいね。先に能力とかを設定します」


 そう言うと女神はステータス画面のようなものを映し出してなにやら入力し始めた。


「なんです、それ?」

「あなたのステータス画面です。異世界に行ってからでは弄ることができなくなるので先に設定しておきます。ええと、スキルは目一杯強化して、これとこれも足して……パッシブは常時ONにして……」


 カチャカチャと数字を入力したりスキルを決めたりしている。全部やってもらえるなんて至れり尽くせりだな。


「これでよし、と」


 しばらくして入力が終わったのか、女神は頷いてこちらを見た。


「これからあなたには私の世界に行って諸悪の根源である魔王を討伐していただきます」

「魔王?」

「はい。本来なら私が直接何とかしたいのですが、今の私にはそこまで介入する力がありません。そこで、女神の加護を受けたあなたに解決して欲しいのです」


 魔王討伐とはなんとも王道である。古き良き、と言うべきか。


「あなたにこれを差し上げます」


 女神は少し古びたペンダントを差し出してきた。表面には女神の絵らしきものが彫られている。


「行く先々で困ったらこのペンダントを見せてください。あなたが女神の使者であることを証明できるでしょう」

「なるほど」


 女神に選ばれたものであることを示すことができるというわけか。勇者の証みたいなものだな。


「異世界に行けば私の加護を新しくかけることはできませんが、質問のやり取りくらいはできますから何か分からないことがあったらバンバン聞いてください」

「そりゃ、どうもご丁寧に」

「それでは心配もありますが、どうか良い旅を……」


 女神がそう言うと俺の体は眩しい光に包まれた。


 こうして俺の冒険は始まった。


 いや正確には俺の苦労が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る