ボクと狐ちゃんとテニスサークル7
そんなこんなでお昼まで、三人で筋力トレーニングをしていた。
正直二人はもう、疲れ切って芝生に倒れている。腕立て伏せ10回に腹筋10回で力尽きているのだからもう運動不足がひどいとしか言えないだろう。
ボクは二人にあわせてやっていたので、まだ余裕があった。
のんびりしていると、ボクたちの面倒を見てくれていた安井先輩が声をかけてくる。
「鈴木さんはスポーツしていたのかしら」
「柔道を少しやっていましたね」
「それでタフなのねぇ。なんでテニスをやろうと思ったの?」
「クーちゃん、あ、尾崎さんですね、がボクを誘ったからついてきただけなんですよね」
「へー、で、どうする? うちに入る? 鈴木さんならやっていけると思うけど」
「んー、尾崎さんは厳しいですよね」
「まあやる気が続くなら可能性が0ではないと思うけど」
「じゃあやめておきます。クーちゃん放置できないので」
「仲がいいのね」
安井先輩が楽しそうに笑う。
「そうですね、大学に入って初めての友人ですから」
「ふふ、仲がいいことはいいことだわ」
「ありがとうございます」
「なら、ここはこのあたりで終わりかしらね。さすがに向こうの二人はもう動けないでしょう」
「そうですね。この後は何があるんですか?」
「歓迎懇親会よ。桜の木の下で花見という名の飲み会ね」
「ボクお酒ダメなんですけど」
「あら? そうなの?」
「アレルギーなので。注射でもダメなんですよ」
実際アレルギーがあるかどうか知らないが、飲まされそうなので予防線を張っておく。お酒でつぶれても、介護してくれる人いないし……
「あらあら、残念ね。うちの飲み会激しいから」
「ははは、お手柔らかにお願いします」
12時前には練習が終わりこれから飲み会、というときに一つトラブルが発覚した。
「さて、着替えて飲み会に向かおうか」
「着替え?」
「クーちゃんも汗かいたでしょ。更衣室で着替えよ」
「……私、着替え持ってきてない」
「……え?」
耳を悲しそうに伏せたクーちゃんが俯く。荷物少ないなーと思った時点で着替えのことをは聞くべきだったか。
「どうしようか?」
「このままいく?」
「いや、それは風邪ひくよ。んー、ボクの服貸そうか?」
「ショウちゃんの服?」
ボクとクーちゃんでは体格がかなり違うが、レギンスとTシャツなら、多少ぶかぶかでもどうにかなるだろうし、パーカーもだぶだぶでも、まあ大丈夫だろう。大体ボクの服は、あとは一張羅のスーツとショートパンツぐらいなのだが、その分同じものをいくつも持っているし、使ってないのもまだ残っているはずだから貸すことも可能だ。
「あ、ボクが着たことないもの貸すから大丈夫だよ」
「え、ショウちゃんの匂いがするのがいい」
「……」
「いたいいたいいたい!!!」
アイアンクローをクーちゃんの顔面にする。クーちゃんは痛そうに両手と尻尾と耳をバタバタさせていた。
ひとまずクーちゃんを着替えさせるために家に帰る。
サイズが合わなくても、体をタオルで拭くだけでもかなり違うだろう。バスタオルを貸すと、クーちゃんは下着姿になって体を拭き始めた。今は女同士だし、気にすることはないのだろうが、なんとなくしてはいけないことをしている気分になり、ボクはクーちゃんの下着姿を視界に入れずに、タンスの中の服をあさる。未開封のシャツとレギンスが出てきた。両方とも黒だが許してもらおう。
「はい、クーちゃん、これ着てみて」
「ショウちゃん、なんでそっぽ向いているの?」
「いや、見るのもなんだから」
「えー、見てもいいのに」
「もともと男だからね、ボク」
「でも今のショウちゃんかわいい女の子だからセーフだよ」
「でもじろじろは見ないでしょ。女同士でも」
「まあそうだねー。あ、でもほら、私の下着、今日は気合入れて可愛いのにしたんだよ」
「いいから早く着ろー!!!」
振り返って思いっきり服を投げつけた。クーちゃんの下着は白っぽいレースのかわいいやつだった。いや、それでもボクは見ていない。
投げつけて再度そっぽを向くと、クーちゃんはごそごそと着替え始めた。
「ほらみて♪ ショウちゃんとお揃い♪ ショウちゃんとお揃い♪」
そういうのでまた振り返ると、黒ずくめの服を着たクーちゃんがいた。レギンスの裾の部分が、クーちゃんの足が細すぎてハーフパンツみたいになっていたり、襟口が広すぎて胸元まで見えてしまっていたりするがぎりぎりセーフ、だと思いたい。さすがに汗でびしょびしょにぬれた服を着せたくないし。
白のパーカーを上に着せて、ファスナーを上まで上げればまあ大丈夫だろう。レギンスもどうやらずり落ちてこないみたいだし…… クーちゃんのウエスト太いのかな、というどうでもいい感想が頭をよぎった。
「これでよしと、まあ確かにお揃いだけどさあ」
「ペアルックだね!!」
「ペアルックなのかなぁ」
ボクとクーちゃんでは、体格がかなり違うが、幸い襟元がずり落ちない程度の服があったので、クーちゃんに着せた。なんというか、全体的にだぼだぼである。
両手をあげて喜ぶ姿は、なんとなく背伸びしている女の子的なかわいさがある。同い年だけど。
「え、何、ショウちゃん? 急に頭なでて」
「なんかかわいかったから」
「え、私かわいい? かわいい?」
「かわいいとおもうよ」
「わーい」
嬉しそうに尻尾を振るクーちゃん。このままなでなでしていたい気持ちもあるが、さすがに飲み会をさぼるのも何なので、飲み会会場に行くことにしようクーちゃんの着てきた服を洗濯機に投げ込んで、温風乾燥の設定にしてボクたちは家を出るのであった。
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