空虚な世界に○色の花が咲いたら。

黒やなぎ

プロローグ

 彼女、園花寺 怜愛えんげいじ れあが嫌いだ。


 高校の入学式を終えて、早3ヶ月。季節は夏になった。


 最初は億劫だった学校生活も慣れたもので、今では何も考えず自然と学校へ向かうようになった。

 退屈な授業には真っ白なノートで返答し、面倒な授業はサボればいい。


 後は屋上で煙草をふかして、毎日のように流れる雲を眺めながらこの世の終わりを願う、そうやって自分にとっての高校生活が終わるはず、だった。





 校門を潜り抜け、中央に建てられた噴水の左側を歩く。


 黒柳 元春は噴水の向こうで沢山の生徒に囲まれながら、皆に笑顔を振りまく彼女の姿を流し見た。


 癖っ毛一つなく艷やかに伸ばされた黒髪は、陽の光を浴びて、まるで天使の輪っかのように煌めいて見るものを惹きつける。

 一人一人に合わせた仕草や、言動、態度、笑顔で皆の心をまるでアイドルのように、瞬く間に魅了してしまう。


 そして拍車をかけるように、季節は夏、薄手になった彼女は惜しげなくその身体を曝け出すものだから、急激な速度で信者達は増え続ける。


 更には頭脳明晰、学力は全科目において不動の1位という怪物。


 噂では皆の為に課外、園花寺先生の補修授業なるものを開いているらしく、自分を除き皆の学力はうなぎ登りという面倒見の良さが備わる。


 そのうち学校は彼女に乗っ取られてしまうのではないか、と他人事ながら本気でそう思う。


 そう、他人事ながら。


「・・・・・・馬鹿らしい」


 自然と漏れた言葉で我に返り、元春は無意識に鋭くなった視線を逸らした。


 今までの人間関係なんて自分には必要なかったし、これからも必要ない。


 関わる事もなく、独り退廃的に完結する。そんな人畜無害な筈の自分がどうして、容姿端麗、才色兼備の体現者である彼女を嫌うのか。


 嫉妬?いいや、そんな小さなもんじゃない。


 第三者だからこそ、見渡せる社会の中で彼女だけが異質であり、奇妙であり、視界に入れるだけで虫酸が走ってしまう程の存在だと気付いてしまう。


 言葉では表現できない程に嫌悪してしまうその中で、ひとつだけ理解できる事があった。


 それはきっと自分だからこそ気付ける些細な違和感と、嫌でも伝わってくる感覚的な何かが本能に強く訴えてくる。


 彼女のその仕草、言動、態度、対応その完璧に見える全てがーーー偽りって事を。

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