第8話 出会いと戸惑い08
「だっははははははははは! なんだ雅、恋の一つもしたことがないのか? 今を生きる男子高校生が、女の子一人や二人と甘い日々を送ったこともないのか?」
「な、笑わないって約束しただろ拓哉! 酷いぞ! 僕の純情を弄んだのか?」
魔のクラス替えを終え、一時はどうなる事やらとハラハラしたが、それは杞憂だと体で提言する男が馬鹿笑いを教室中に響かせている。
彼の名は
故に、人見知りをする僕でもこの男の魅力にモノの数秒で惹かれてしまい小っ恥ずかしい秘密も打ち明けたのだが、その刹那、気持ちがいい程に豪快かつ愉快そうに笑われることになった。
そりゃさ、健康的に日焼けした肌、二重の切れ長の目、スパッと通った鼻立ち、しっかり矯正された歯並び、どれもがバランスの取れた配置で顔面にはめ込まれている。外見だけでもモテそうなスポーツマン風の拓哉と比べたら、僕なんて日陰者だ。
「バカ野郎! 俺だってな、今だからこそ髪は少し伸びたが、一年の今頃は冴えなくてモテないただの毬栗頭だったんだぞ? むしろ、俺達は仲間だ! 恥じることなどどこにある?」
バン! と膝を叩き立ち上がる拓哉。
「大事なのはハートであり、付き合った回数なんかじゃない! 心と心で繋がりあった密度が大事なんだよ。誰と恋してどれだけ幸せになれるかが大事なんだ! 雅、お前はやっとそのスタートラインに己から立とうとしている、俺の大切な同士だ!」
「た、拓哉……お前って本当に良い奴だな」
「アホ! 共にモテ街道をまっしぐらしようじゃないか! 一緒に高二デビューしようぜ?」
「たくや……、任せろ相棒!」
「おう、相棒共にバラ色の青春を!」――、先に立ち上がっていた拓哉と肩を組み、桜吹雪が舞い踊る窓の外をまっすぐ見据え拳を高らかと掲げる。
時に、馬鹿と阿呆はダイアモンドよりも硬く、太陽の黒点よりも熱い友情を生み出すもの。それがこの瞬間であり、偶然席が前後であった僕達は感極まって抱擁を交わす瞬間でもあった。
「――、ふふっバカが二人いる」
「え、奈緒ちゃんの知り合い?」
「うん、バカだよね」
「クスっ、なんだか楽しい一年になりそうだね」
「そうだね」
それを斜向かいから見つめる奈緒が、新たな級友達に囲まれながら笑ってみていた。
殆どが初対面同士の二年F組。まだまだ、僕と拓哉を除いた面々は徐行運転で互いの心の距離を縮めていく。それでも、奈緒やその新たな友人達の視線の先で抱き合うバカ二人が、これからの二年F組の未来を表している様に見え、
「一年間よろしくね」
「楽しい一年にしようぜ!」
だれからともなく、これからの一年間を、熱い友情とバラ色の青春で溢れる日々にする事を約束し合うのは自然の流れだった。その中でまだ名も知らぬ男子生徒がアコスティックギターで「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」を奏でていたのは、僕と拓哉のバカ話しが教室全体に響き渡っていたことを暗に表現していた。
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