第155.リーティアの準備

 ――バチャバチャバチャ!



 今度はうつ伏せになって、ちょっとお行儀悪く浴槽の中でバタ足を披露する俺。


 うーん、大人な俺がやって良いのか? と問われれば、ちょっとダメな気がしないでも無いけど、ある意味ここは『俺の自宅』って事だし、問題は無い……はずだよなぁ。ははは。



 って言うか、そんな事より、リーティアの『準備』って一体何だろぅ?



 ――まず、髪をアップにする?


 うーん、この線は薄いか? 何しろ最初っから編み込んで、アップにしてたからなぁ。


 でもそう言えば、今日のリーティア可愛いかったなぁ。ああ言うお出かけアップって、なんだか気分が上がるよねぇ。もう、特別感半端無いものぉ。なんだか、俺の為に頑張っちゃいました! って意気込みが伝わるって言うかさぁ。もう、愛おしくって『ぎゅー』って抱き絞めたくなるよねぇ。うんうん。



 ――あんなものを脱いだり外したり?


 いやぁ、そんな矯正下着っぽい物は着てなかったと思うなぁ。何しろ、ついさっき、おもいっきり抱き合った仲ですからなぁ。そのぐらいは、しっかりチェック済みに決まってるじゃん。彼女のダイナマイトボディは、間違い無くでしたよ。えぇ、間違いありません。それに、あの柔らかさもしっかり味わいましたよ。えぇ、余すところ無くね。えへへへ。やっちゃいました。えぇ、やっちゃいましたよ。もう、フワッフワのモフッモフ。良くさぁ、小動物をそう言う感じで表現するじゃん! 俺に言わせてもらえば、もう女子の代替でしかないよね。もう僕ぐらいの大人になると、本物の女子をモフモフしちゃう訳だからね。小動物のモフモフなんて、全っ然……必要。うん、それはそれで必要。猫のみーちゃん、本当だよ。キミも必要だからね。女子のモフモフとはちょっと別の意味で必要なんだからね。うんうん。



 ――って事は、り?


 いや、それは無いかっ? なにしろ、前回の脳内講義の際に、現役女子から直接指摘があったんだよねぇ。「慶太准教授。『ソリソリ』は、流石に事前にしてきますよ」ってね。うーん。現役の女子からの指摘なので、確かにその方が確率は高いんだろうなぁ。でも、今日だけに限定した場合ね、もう一度理論検証してみる価値があると思うんだよ。例えばさぁ、彼女はつい昨日まで俺の奴隷になるなんて思っても見なかった訳だよね。しかもさ、彼女は昨日、アル姉や、猫のみーちゃんと一緒にお風呂に入って、二人で寝ていたのは間違い無いのさ。となると、彼女一人になる時間がどれだけあったのか? って言う事になるよね。つまり、昨日から今までの間で、『ソリソリ』の時間は確保出来ていなかった! と見る方が自然じゃないかな? いや、勿論、二人と一匹でお風呂に入り、毅然と『ソリソリ』する事も考えられなくは無いけど、そんな『ご褒美シーン』、童貞の俺には刺激が強すぎて、想像する事すら憚られる……ことなんて全然無くて、オールカラーでガッツリ想像してみる俺。はうはうはう? これはシュール! とてもシュールだ。しかも、アル姉も一緒にぃ?! はわわわわ! いかん! これはダメすぎる。R18規制の前に、イメージの損壊が危ぶまれる。物語の進行上、俺の妄想はここまでにしておくけど、賢明な読者には、黙秘権と弁護士を呼ぶ権利、更には妄想を続ける権利があるっ! いやぁん、やっぱりやめて。それ以上僕のリーティアとアル姉を汚さないでくれっ! お願いだからね! 本当にお願いしたからねっ! ホントにもぅ。これだから、真性の童貞は御し難い。



「って言うか、本当に俺とお風呂に入る気あるのかなぁ?」



 ……


 ……


 ……



 ――ブルルッ



 その恐ろしい未来予想に、恐怖のあまり身震いする俺。



 いや、待て待て。最初ココに来た時、リーティアは「一緒に入りましょっ!」って言ってたよな。


 まぁ、確かに俺は妄想の世界で、リーティアとの混浴想定での脳内シミュレーションを何度も繰り返してはいるけど、その実、かなりの部分を疑っていたのは間違い無い。


 だいたい、そんな『ラッキー』な予想は往々にして覆されるに決まってる。


 大体、考えても見てくれ。


 いくら奴隷とは言え、リーティアはまだ年若い少女。


 しかも、まだ俺とは『ちゅー』すらしたことの無い間柄だ。


 流石にご主人様とは言え、いきなり一緒にお風呂って訳にも行くまい。


 もう、その時点でな順番が前後しちゃう事、この上無いからな。


 何だったら、タン塩食う前にカルビをガッツリ行っちゃった感じ?


 ……


 ……


 ……


 ……違うな。うん、全然違う。



 例えばこれが、時代劇の金字塔! 『水戸〇門』に出て来る悪代官が、無理やり女中を手籠めにするのとは訳が違う。


 あれは、上位者である悪代官が無理難題を言うから、女中が嫌々対応するだけであって、いきなり自分から「一緒にお風呂に入ろっ!」とは言わないはずだっ。


 ……


 ……


 ……



「……いやぁ。待てよぉ」



 そこで、俺は、途轍とてつもない事を思い出した。


 俺の人生のバイブル。……と言っても過言では無い『水〇黄門』


 その中で、唯一毎回出演する上に、何の脈絡も無く入浴シーンがあり、しかも自分から悪代官を風呂場に誘うと言う、とんでもないキャラクターが存在する。



「……はわはわはわ……そう言う事か、そう言う事なんだなっ!」



 これは『お銀』だ! この手法は、正に「かげ〇うお銀」のシチュエーションだっ!


 実際にはシリーズ中盤から、なぜか名前が「お娟」に変わった事もあり、ちょっと「あれっ?」と思った視聴者も多くいるかとは思うけど、そんな事はどうでも良い。


 結果的に、中身は妖艶な美女ゆみ〇おるである事は間違いの無い事実なのだから。


 そうか、確かにそれであれば、話の辻褄は合う。完全に整合する。



 ――パチャ……



「ふいぃぃ……」



「……うん。違うなっ!」



 全国2,000万人の童貞諸君。申し訳無い。全然関係無いわ。


 と、俺が期待に膨らませつつ、どうでも良い妄想にすっかり飽き始めた頃。



「皇子様、失礼致します」



「はうっ!」



 お風呂の中で絶賛バタ足中の俺は、突然その動きを止め、声のする方へと振り返ったのさ。

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