第128話 ASK三大童貞指標

「皇子様、少々お待ち下さいませ」


 俺の背中の方から、相も変わらぬリーティアの可愛い声が聞こえてくる。恐らく俺の脱いだトゥニカを簡単に畳んでいるんだろう。


 そうなんだよなぁ。そこなんだよぉ! 確かに衣装なんて、後でたためば良いって普通思うだろう? いやいや、そうじゃないんだなぁ。


 これだから、童貞と付き合い始めたばかりの女子は御し難い!



 そんな事言ってると、童貞の彼氏と一緒にお風呂に入る段になって、人生最大の汚点を残す事になっちまうんだよっ! そんな事になったって知らないからねっ!



 まずはよーく聞いておくれよ。童貞は、夢見るお姫様とおんなじで、夢見る王子様なんだよ。


 もちろん、自分の彼女は完璧で、うんちも、オシッコもしないと思いこんでいるのさ!


 ただ、心配は要らないよ、それはまだ、童貞の頃のお話しであって、そうでなくなってしまえば、生理現象全般ひっくるめてになってくれるから安心してね。



 おっと、話がそれたね。


 そんな完璧な女性像の三大指標の一つに「几帳面さ」が含まれているんだよ。



 ……えっ?


 知らなかっただって?……なんてこったい!



 ねぇ、キミはどこの小学校出身なの? だって保健体育の時間に、男子にはグラウンドでアホの子の様にサッカーをさせておいて、その隙を突いて、女子だけこっそり教室に集められた時、先生からこの最も大切な話を聞かなかったって言うのかい?



 ……あぁマジか! 日本の教育制度は一体どうなっちまってるんだよ。まったくぅ。早く俺が文部科学省の大臣になって、保健体育のカリキュラムを根本から見直さないとダメだな!


 まぁ、仕方がない。知らないなら教えてあげないと話が先に進まないからね。まったく、骨が折れる事だよ。まぁ、全国2,000万人の童貞の諸君は、復習だと思って聞いてくれ。



 残念ながら、童貞の基礎の基礎。当たり前過ぎて、さすがにここは試験には出ないけどね。



 さて、童貞が女性を測る三大指標とは、第一に「明るさ」、第二に「清純さ」、そして第三に「几帳面さ」、それぞれの頭文字を取って、ASK三大童貞指標と呼ばれているんだよ。


 この中で、一番大切なのは実は「明るさ」なんだ。なにしろ童貞は、生まれてから一度も女性と上手く話した事なんてないんだからね。


 そんな、半分引きこもりの童貞の方から、女性に明るく話しかける事なんて、絶対に出来っこ無い訳さ。


 そうなると、明るく童貞に話しかけてくれる女性は、金の靴を履いてでも探さなければいけないほど、貴重な存在なんだ。



 次に大切なのは、もちろん「清純さ」だよ。もぅ、当たり前過ぎて、説明も不要だよね。でも、お気づきかな? そう、童貞の最も愛する「清純さ」なんだけど、実は「明るさ」よりも判断指標としては、下位に位置付けられるんだ。これって、凄い事だと思わないかい?



 さぁ、それは何故かな? ……それじゃあ、右から二番目の……そうそう、黒ブチメガネをかけた君。君はいかにも童貞の様だから、もちろん答えられるよね。……ふん、ふんふん。……そう! はい、正解! 皆さん拍手してあげて下さーい。


 と、言うことで……えっ? 聞こえなかったって?


 仕方がないなぁ、そんな事だから、保健体育の時間にも大切な事を聞き逃しちゃうんだよ、君は。本当にこまったものだよ。


 さぁ、それじゃあもう一度説明するよ? ポイントは二つあるんだ。



 まず、一つ目。


 それは、最近の異世界転生物を含む、ライトノベルの影響が大きいんだよ。


 確かに十年以上前のヒロインは、高い「処女性」を要求されていたんだ。先ほどのASK三大童貞指標の前に「処女性」が加えられていて、S-ASKの四大指標と言われていたんだね。


 しかし、最近の人外を含むヒロインが台頭してきたことにより、必ずしも、その処女性を重要視しなくなって来ているんだ。



 それは、例えばサキュバス、ラミア、果ては奴隷や娼婦など、ある程度男を惑わすヒロインであっても、現時点で自分だけを見つめていてくれるのであれば、過去の遍歴については、水に流す様になってきたんだね。


 つまり、童貞も日々進化しているって事だよね。学術的にも童貞進化論については、別の講義があるから、興味のある人は単位を取ってみるのも一興だね。



 さて、もう一つの理由としては、時代として「処女性」を追求しようにも、残念ながらリアルの方がもっと進んでいて、需要と供給のバランスが取れなくなったと言う事も、その要因の一つに挙げられる訳さ。


 まぁ、積極的な理由と言うよりは、かなり消極的な理由ではあるんだけどもね。



 と、言うことで、指標の先頭に君臨していた「処女性」は「清純さ」と統合されてしまったと言う訳なんだ。



 そして、ようやく最後に残された「几帳面さ」。


 意外に見落としがちなこの指標。割と単純な理由から来ているんだよね。



 それは、ちゃんと後片付けが出来る。とか、ご飯を食べる時に「いただきます」と言えるとか。基本的な事がその指標の基礎になっているのさ。決して高くは無いハードルなんだけど、これを蹴倒した場合のペナルティは計り知れないものがあるんだよ。


 つまり、基本的な事が出来ない娘は、恐らく童貞の自分も大切にはしてくれない! と見られてしまう訳なんだ! 「処女性」の追求の放棄と、過去を水に流すと言う寛容な側面を持ちながらも、ほんの些細な事で、「几帳面」では無い所が垣間見えた瞬間、彼女の心が自分から離れてしまうのでは無いかという不安を払しょく出来なくなってしまう……。そんな繊細な心を持ち合わせているのが、『真の童貞』と呼ばれる人たちなんだね。



 さぁ、これらの事を知った上での、このリーティアの行動を振り返ってみよう。


 ほら、ちゃんと俺の衣装を脱がした後に、簡単にではあるけれどたたんでいるよね。これこそが、童貞の心をゲットするベストな方法なんだね。


 もちろん、あんまり俺を待たせると言うのも本末転倒な訳だから、ある程度で構わないんだよ。まぁ、その部分の線引きが出来る様になるまでは、何度も反復練習が必要になるから、覚悟しておく様に。




 ……と言う思いを胸に、リーティアの質問に対して、



「あぁ、分かったよ。このまま待ってるから大丈夫……」



 と答えつつ、この後の入浴方法に思いを馳せる俺。



 あぁ、そう言えば、泡ぶろの入り方について、まだ思考がまとまっていなかったな。この時間を利用して、もう一度検証を進めてみる事にしようかなぁ。


 俺はパンツ一枚の格好のまま、再び妄想の世界へと踏み込んで行くのであった。

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