魔女集会で逢いましょう
通りすがりのMOT
第0章 物語のはじめ
第1話 第0章のプロローグ
ここは何年も前に廃墟となった教会跡地。
肌も凍るような冷たい風が吹き続け、あたり一面を白く染め上げる雪がいまだに降り止む気配はない。
生物たちは穴倉に身を潜め、獣たちも眠りについてこの冬が明けるのを待っていた。
しかし、
「―――――――――ッ!!!」
この場に不釣り合いな程大きな声で、赤子の様に泣き声を上げる者が居る。
その者は廃墟である教会に申し訳ない程度に残っていた屋根の下で、少しだけ綺麗とも呼べる衣服に身を包む。
少し癖っ毛のある黒髪を震わせながら、その少年は鳴き声を上げ続ける。彼はこの世に生を受け、5年と行かぬ月日しか過ごしていない。
そんな彼がこれ程の大声で泣き続ければ、その目からは大量の涙が流れ落ちる筈だった。それに、そんなに嫌ならこの場から立ち去ればいいのだ。
だが、その目からは 一滴の涙 も落ちていない。そして彼は現在の自分が居る場所も、そこから見える景色すら分かっていない。
何故なら彼には、涙を流す筈の涙腺も……
この世界を見る為の、両目が無いのだから。
そんな彼をここまで育ててくれた両親には、たとえ最後は 捨てられた としても、少年は感謝していた。
しかし、自分に突き付けたら現状に耐え切れず、今こうして泣き叫んでいるのだ。そんな事をしても、何も変わらないということが解っていた。
「まさか、本当に居るとは思わなかったよ」
突如、少年のすぐ近くから声が聞こえた。
その余りにも美しい大人びた女性の声に、あれ程泣き叫んでいた少年は泣く事を忘れ顔を上げる。
目が見えない、目が無い少年にはその女性の姿や顔は分からない。
「お前は、捨て子か?」
彼女の問いに、少年は無言で頷く。
そして、女性は少し考え込むように間を置いてから
「それにしても、お前のその異常なまでの…あぁ、神への代償を支払ったのか」
「………?」
少年には彼女の言葉の意味は分からない。
そんな少年に構うことなく女性は言葉を続ける。
「そうか、こういった場合もあるのだな。彼女らの気持ちが少しだけ解ったよ」
「……あ、あなたは?」
少年の問いに、女性はその顔に妖艶な笑みを浮かべる。だが、少年にその笑みが見えることはない。
「私は、とても気紛れなんだ。私の気が変わらない内に選んでくれ。私について来るか、このまま此処で凍え死ぬか」
それはまるで、選択肢があるようで存在しない問い。
「つ、ついて行きます! 僕はまだ死にたくない!」
「そうか、ならついて来い」
女性は少年の言葉を聞くと、その身に纏った少し青み掛かったローブを翻し歩き始める。
少年は生き延びる為に、彼女の足音を頼りに追い掛ける。
「これで私も、彼女らの仲間入りだな。次の集会が楽しみだ」
自らの顔を隠すほど大きなとんがり帽子を、冬風に飛ばされぬように被り直す。
そして女性は、また一層笑みを深め――その鮮やかに輝く
そう、女性はただの人ではない。
この世界では然程珍しくもないが
――この女性は、魔女であった。
その日少年は、魔女に拾われた。
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