第2話


「大、丈夫です。ちょっと考え事しながらやってて……」


 僕の顔を覗き込んで、「大変だ」と流しの水を出した。


 真っ赤になった手と顔を、冷たい流水で冷やす。


「確か、軟膏が……」


 リビングの方へと行った裕文さんが、「冷やせたらこっちに来て。擦っちゃダメだよ」と棚を開けた。


「本当に大丈夫ですよ。目にも入らなかったし」


「……おでこと頬っぺた、点々と赤くなってるよ。水ぶくれになっちゃうかも」


 心配そうに言って、薬箱を開ける。


「とにかくおいで」


 ソファに座って、裕文さんは軟膏を消毒した指先へと取った。


 優しく塗ってくれるのを、ソファの隣に座って素直に受ける。




 しばらくそうしていると、突然クスリと裕文さんが笑った。


「……? 何ですか?」


「いや、さすが姉弟だと思ってさ。由美も――…」


 そこまで言って、言葉を止める。


「ううん、ごめんね。何でもない」


「何ですか? 言って下さい」


 僕を見返した裕文さんが、困ったように眉を下げて笑った。


「……自覚なくてごめん。いくら由美の話でも、前に付き合ってた人の話は聞きたくないよね」


 今はキミが恋人なのにね、とこめかみを掻く裕文さんに、首を横に振った。

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