第9話

「さて、と」


 もう1度姉さんの墓前で手を合わせた裕文さんが、立ち上がる。


 そうしてクスクスと笑い出した。


「結局。めかし込んだ俺達を独り占め出来る女性は、由美だけってことか」


 その言葉には、僕もふふっと笑った。


「それこそ、『当たり前よ』って言ってますよ」


「――では哀しく男2人、今からデートと行きますか」


 せっかくめかし込んだし、と言った裕文さんに「えー」と不満の声を洩らしてみる。


「哀しく、ですか?」


「いえいえ。大変光栄です」


 これは失礼を、とお辞儀した裕文さんが、肘を三角に突き出す。


 ウィンクしてくる彼に、じゃれ付くように腕を絡めた。


「――ところで。俺を裕文さんって呼ぶのはどうなったのかな?」


 揶揄うように言い出した裕文さんに、「さあ?」ととぼけてみせる。


「当分先じゃないですか?」


 こつんと頭を叩いてきた裕文さんに、首を縮めるようにして、笑いながらしがみ付く手に力を込めた。





 この幸せを、運んでくれた姉さんに、とても感謝してる。





 そしてこの幸せを与えてくれる裕文さんには、

 生まれて初めての、狂おしい程の、恋しさを――……。





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