第3話
「ん?」
「あの、掃除中に見ちゃったんですけど……。いえ、中身は見ていないんですけど。机の上にあった……」
そこまで言うと、裕文さんは何のことだか判ったみたいだった。
こちらを見た気配があって、「ああ」と声を発する。
――俺、見合いするんだ。
続くだろうその言葉を、彼から聞きたくなくて、僕は慌てて続けた。
「お見合い、するんですね。……よかった。お義兄さんまだ若いし優しいから、きっとすぐに決まりますね」
「いや、そんな事ないよ。由美くらいじゃない? 俺なんかがいいって言う物好きは」
ハハッと笑いながら言った裕文さんに、苛立ちの息が洩れる。
彼の言葉を遮るように、「そんな事ないよ」と吐き出した。
「あっ、でも丁度良かった。僕も、友達から皆で遊びに行こうって誘われてて。お義兄さんの見合いの日に合わせて、約束しようかな」
もう、自分で何を言っているのかも解らない。
けれど、「あ、そうなの」と呟いた裕文さんの言葉に、心が壊れそうだった。
――否定してよ。見合いなんかしないって!
グッと奥歯を食い縛って、零れそうになる涙をなんとか堪える。
裕文さんに背を向けていて良かったと、そう思った。
「浩次君?」
裕文さんが、ソファから立ち上がる気配がする。
近付いてほしくなくて、僕は笑いを含んだ声で続けた。
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