4月17日(土) 広島市中区銀山町にある中華料理店「深夜的中华食堂」で飲んで食べる。

広島市中区銀山町にある中華料理店「深夜的中华食堂」で飲んで食べる。


昼飯は中華、映画のロケ地が中華、そして夜の飲み食いも中華と、火力を堪能する一日となった。


噂がちょっと怖い初めて訪れた「深夜的中华食堂」さんは、お誘いしてくれた同伴の方々によるナビゲートもあり、硬質に固められた自分の髪型の整髪料と量と、ジェルだかワックスだか使っている本人もわからない種類をポマードとしていじってくれる心安さもあり、とても楽しい飲み食いとなった。


紹興酒が美味しいと聞いていたので、遅れて入店した自分は伴侶の注文している黄酒を頼むことにする。初めて知ったが紹興酒と呼ばれるのは特定地域の縛りがあるらしく、大雑把に理解した頭では、浙江省で作られている酒が紹興酒と呼ばれるらしい。比較にテキーラを考えたが、おそらく細かい分類と違いもあるだろうから、適当な情報として漠然と理解とした。


この酒が料理にとても合う。大将は「うまいかまずいで十分なんだよ」と言っており、長ったらしく文章を書く自分の感想など面倒でしかたないだろう。これはどの店の方も思っていることだろうが、うまいまずいはお店で口にして、家に帰ってからの感想は、放っておくに限った面倒くさいの一言に尽きる。


尾道産の青パパイヤの千切りを、湯通しして花椒のオイルをフィーリングさせた翡翠の色がとても美味しい。後に食べる料理にも通底する要素がここに結晶されており、中華料理はまず見た目が美しく、そして味も汚れない香り良さがあった。昼に食べた「桂蘭」も美味しいが、「深夜的中华食堂」さんの旨さは洗練にあった。次に出た生の海老は、透明な殻からして中華料理の色合いがあり、琥珀のように澄んだ汁と海老の盛りつけからして音色があった。大将は殻の剥き方と食べ方を説明してくれたが、殻も一緒に食べるという下手を自分はしてしまった。近頃は殻も尾も食べることを覚えていい気になっていたが、大将の心遣いを無駄にするような事をしてしまったとすぐに反省した。わずかに殻を剥いて出された海老の姿がすべて語るように、身肉の柔らかさと味わいの透き通りが大切なのに、殻も一緒に食べれば雑な要素で台無しになってしまう。それを海老の頭でわかったので、他の身肉は殻をはがして味わい、それから殻だけを口にして、海老の旨味が伝わった汁をちびりちびりと飲んだ。これに黄酒の味わいが抜群に合う。本当に美味しい。


それからよどれ鶏を食べたが、身肉のしっとりした味わいが上品で、油の広がるタレもこれまた澄みきっている。魁偉な風貌と人を食ったような言動の大将だが、料理は正反対に思われるほど繊細かつ美しい。こんな時に人は表面ばかり見て信じ込もうとするが、内面は外見よりも作る物に表れることを知る。ただ、どんな人でも偽れないのが目で、大将の眼は料理と内面を一致させる優しさと多感な心が表れていて、それでこそクオリティの高いポスターを生み出すセンスがあることを示している。


黄酒3杯に紹興酒1杯を飲んでも悪い酔いがまるでない。穏やかに酔ったままで、木の香る蒸籠の小籠包を熱々のまま口に放り込み、中華らしい豪快なからみの青パパイヤの炒め物を食べ、香ばしいタケノコと挽き肉のさっぱりした炒め物を食べ尽くす。油淋鶏でも細微な料理の手間が感じられるように、ネギの刻み方の食感がとても良い。そして最後に登場した麻婆豆腐がなんと美しいことか。中国らしい油を香らせる料理技法の真価があるようで、インドカレーのテンパリングのようでもあるが、この火炎色した油の鮮度と芳香は、見た目以上に優しく柔らかく、澄まされた品質を持っているだろう。肉や脂のこってりした重みはなく、軽やかさは豆腐の淡泊な味わいを活かしており、花椒の香りと挽き肉の混ざり方は、中国料理は極めて香りよく、美しいのだと繰り返し知らされた。


料理の歴史がやはり異なる。ただ重ねるのではなく、的確な趣味で要素は洗練されている。どの酒も非常に味わい深く、年数の経った物らしく角が取れている。そして大将は噂どおり存在感はあったが、刺々しい人物よりも単にふてぇぇだけであって、角のない優しさは表面の裏に大きく潜んでいる。


雑に、的外れに炒めるのとは異なる。広大な中国を四文字の漢字で括ることはできないが、この店の中華料理は油も香りも澄んで綺麗で上品で、共に会食を楽しんだ夜となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る