11月29日(日) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・オーケストラ等練習場で「Ensemble響 第11回演奏会「晩秋の響」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・オーケストラ等練習場で「Ensemble響 第11回演奏会「晩秋の響」を聴く。


ピアノ:小林知世

ヴァイオリン:岩下恵美、柳響麗、後藤絢子

ヴィオラ:永井啓子、増田喜代

チェロ:熊澤雅樹


ベートーヴェン:弦楽三重奏曲第1番変ホ長調

ヒンデミット:ヴィオラとピアノのためのソナタヘ長調

ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番ヘ長調「アメリカ」


空気がひんやり音も景色も澄んだ季節らしく、室内楽を聴きに行った。


熊澤さんのプログラム紹介を読むとおり、今日は今年1月に新しく広響に入団した岩下さんと柳さんを披露する演奏会となっていた。


ベートーヴェンの弦楽三重奏曲の第1番は初めて聴いたが、6楽章構成とはいえ45分に届く大曲となっており、第1楽章から10分近く演奏されるので、楽章は切れ目なく奏されるのかと疑うほどだった。古典派らしい形式を持ちながらベートーヴェンらしい個性も含まれており、各楽章は上品でありながら柔らかいメロディーを持ち、反復がやや冗長に感じられるものの、確かにすばらしい作品としての風格を持っている。ただし、夕方の眠気を催す時間にこの曲は催眠効果を発揮して、首を曲げる人も見られたのは当然だろう。家にこもって午前午後を過ごし、昼寝までした自分は眠ることはなかったが、もし朝から動いていたらうとうとしたかもしれない。


そんなブルックナーほどの規模を持つ曲を第1ヴァイオリンの岩下さんは自信を持って引っ張っていった。滑らかながらやさでない音色は艶を持ち、甘くならないフレージングと豊かなヴィブラートで陣頭をとり、途中息切れしそうなこの曲をゆったりと運んでいった。第5楽章には舞曲らしい箇所があり、古典派とは異なるロマンに熱情を乗せて刻まれ、ベートーヴェンの特徴をうまく解釈して音を走らせていた。


鷹揚としながらも意欲的な曲が終わると、ヒンデミットのヴィオラとピアノのソナタで、半音階がまず目立ち、ヴィオラの一音が長くのびて夢想的な印象が喚起される。つかみどころのない自由な楽想が各楽章に区切れなく奏されて、うねるようにショーソンやサティらしい色を見せたりと、ひとくくりにできない音楽がヴィオラとピアノだけで様々に表現されていた。


ドヴォルザークの「アメリカ」は冒頭の旋律に他で聴かない響きを感じた。柳さんのシャープな音色は豊かさよりも冷涼な線となり、アメリカ大陸の中でも東アジアらしい色合いとして叙情を歌うようだった。端正な音色を中心に雄大な合奏よりも、チェロの熊澤さんが下支えするおおらかな曲となっており、見守り重ね合う和音の調子はせめぎあうよりも女性らしいたおやかさを感じるものだった。


男性一点の室内楽は晩秋ではあるが色が香り、オーケストラ内とは異なる色の出せる落ち着いたドレスでそれぞれが着飾られていて、目にも彩な風采として華やかに音楽が奏でられていたが、落ち着きと静けさは間違いなく冬に近づいた温かさがあった。

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