11月7日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでセルゲイ・ボンダルチュク監督の「戦争と平和 第二部 ナターシャ」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでセルゲイ・ボンダルチュク監督の「戦争と平和 第二部 ナターシャ」を観る。


1965年(復元1988年) ソ連 97分 カラー Blu-ray 日本語字幕


監督:セルゲイ・ボンダルチュク

脚本:セルゲイ・ボンダルチュク、ワシリー・ソロヴィヨフ

原作:レフ・トルストイ

製作総指揮:ニコライ・イワーノフ

音楽:ヴャチェスラフ・オフチンニコフ

撮影:アナトリー・ペトリツキー、アレクサンドル・シェレンコフ、イォランダ・チェン

編集:タチアナ・リハチョワ

出演:セルゲイ・ボンダルチュク、リュドミラ・サベリエワ、ヴャチェスラフ・チホノフ、イリーナ・スコブツェワ、アントニーナ・シュラーノワ、アナスタシア・ヴェルチンスカヤ、ヴィクトル・スタニツィン、キーラ・イワーノワ=ゴロフコ、イリーナ・グバーノワ、アナトリー・クトーロフ、ボリス・スミルノフ、ワシリー・ラノヴォイ、オレグ・エフモレフ、ボリス・ザハーワ、ギウリ・チョホネリーゼ、ラジスラフ・ストルジェリチク、アンジェリーナ・ステパノワ、オレグ・タバコフ、セルゲイ・エルミロフ、ミハイル・フラブロフ、ボリス・モルチャノフ


昨日に比べると90分を少し越える程度の上映時間で、戦闘シーンはなく、第一部ではバレエダンサーらしい足の運びでぶれない上体を快活に走らせては、他人の情事の盗み見で枠を残したロマンのシルエットに自分をはめ込んでいたりしていたが、この作品のナターシャは恋愛に対して保守的な試練を課され、揺れ動く心に焦点が当てられている。


セリフはそれほど多くないが各人物のモノローグとナレーションで内面の言葉は語られ、映像美を軸にしてバレエらしい表情の動きで感情が描かれている。爆発と煙はなくとも作品の基本となる意匠の量感は変わらず、犬が疾走して狼を追いかける狩猟の場面や、アメリカ西部の駅馬車のように雪原を走らせるトロイカの激走などは、軽快なリズムと甘美なメロディーのように表層的な情感を訴えかけてくる。


社交場での虚飾の演舞も様々に見所があり、ギターの演奏でロシア女性らしい一人踊りをするシーンも民族的な遺伝子があり、どちらでも細い肢体をしなやかに、かつ活動的に踊らせるナターシャの姿は、愛らしいからこそ羽目を外す熱情的な女性の姿が潜んでいる。


第一部で多く描かれていたアンドレイとピエールの出番は少なくとも、人間模様を描き出すのに必要な役割としてあり、決闘で腹を打たれたドーロホフも駆け落ちの手助けをする放埒な仲間として登場している。このような大作の醍醐味として、各登場人物が引き続き存在することで性格がより深みを増し、鑑賞する側にも親近感と同情が生まれて、一面でない他面に触れる味わいが生まれるだろう。


もうすこし我慢して、などとお節介の気分を頭に抱えつつもどかしい展開は進み、やはり事はうまくいかない。しかし「アンナ・カレーニナ」のリョーヴィンのように、大きな恋の痛手をこうむって人生はもう終わりを告げたように思われても、決しておしまいではなく、まだ先はあり、喜びが持ち受けている。ピエールが告げるラストのシーンの多大なる同情は、諦観主義で陰鬱であり、作家自身が悪妻と呼ぶ女房を持っていた経験が投影されているものの、それでも他人と人生をあきらめられない心根の偉大さが凝縮されている。


第二部では休止されていた戦争も始まると1812という数字と共に語られて、第三部への期待はうまく持ち越された。虚飾と虚無の中で内面性が語られるこの物語の映画への移植は非常に好ましく、死後と輪廻にも触れられるこの作品は東洋的な観念も含んでいる。


冗長なトルストイの話が作品に何度も顔を表すが、古典を代表するにふさわしい真摯な人間模様が精彩に描かれる小説を、ボンダルチュク監督はピエールというすばらしい登場人物に入りながら描いている。


生きるうえで大切なことを、胸を震わせて感じずにはいられない第二部だった。

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