9月5日(土) 広島市中区土橋町にある花屋「SHAMROCK」で「桑原雷太+SHAMROCK 写真展『RAMRAM2』」を観る。

広島市中区土橋町にある花屋「SHAMROCK」で「桑原雷太+SHAMROCK 写真展『RAMRAM2』」を観る。


19時まで開いていると書いてあり、近いので仕事帰りに寄ってみた。


訪れるのは2度目になる「SHAMROCK」さんは、いまさら店舗内の圧倒的な質量に驚かされてしまい、植物を嫌いでない自分にとって店先の品々からパラダイス気分だった。ただ、今日は写真展を観に来たので、気ままにいればそれだけで閉店時間になりかねないので、素通りして2階奥の展示室に入った。


いくつかの店に置いてあったポストカードでこの写真展を知った作品が入ってすぐ正面にあり、その大きさと存在感に観入ってしまった。ただ、目が慣れないので、目の前の造形をただ観るだけになり、細かいところから受ける意識ある情感はそれほど浮かんでこなかった。いわば、有名な観光地で壮大な伽藍を観て、凄いのだが、よくわからずに感動を覚えているようだった。


結局経験を頼りに作品を知っていくような形となり、色はまるで異なるが、テレビにも出ていたというヨシダナギさんのスリ族の作品を思い出したのは、異国の人物と草花で飾られているという要素だけで、人物の表情の捉え方や人物と装飾が醸し出す情感など、多くの知らない点でずいぶんと異なっているが、慣れない目は知っている素材だけで結びつけようとしてしまう。


また、広島市現代美術館で開かれていた松江泰治さんの「地名事典 / gazetteer[ギャゼティア]」も思い出したのは、カラーならばもっと景勝の持つ生気を立体感と共に映し出すだろうが、色を奪われた線の世界では質感が希薄になるからこそ輪郭は明確になり、モノクロの持つ叙情性と茫漠感でもって記憶の再現に近づこうとするようで、昔の映画ではなく、現今の映画によるモノクロ作品で目にする静謐な空気感は物の実存を映し出すよりも、むしろ歪曲して描き出すように思えてしまい、そもそも視覚が勝手に感じるだけであって、物の存在は光に生かされていることを思い知らされる。


そこにいた桑原さんが気さくに話しかけてくれたので、創作行程や方法、またターバンに対する思いなどを知ることができた。バックパッカーという共通の背景があり、自分もインドを1度ではあるが2ヶ月周遊したことがあったので、ラジャスタン州にこだわる理由なども聞けて、思ったよりも長くなってしまい、作品を観るよりも話し込んで閉店時間を忘れる具合になってしまった。


話を聞いて恥ずかしく思ってしまったのは、各人物の被る草花が実際に身につけていたのではなく、カラー写真をモノクロに加工したところにシャムロックさんが細微に盛りつけて制作したとのことで、たしかに作品を観ると、植物が一段と立体感をもっていることに気づかされる。ただ、元の写真との境界線はあるが素晴らしい味わいとしての次元が融和していて、勝手に騙された自分の感覚はそもそも間違いではなく、平面と立体の混合の調和は、まるでそれぞれが生命を持ったように無言で佇んでいる。


植物をもっと細かく見分けられたらさらにおもしろいのだろう。視点はいくらでもありそうで、見所はそれだけ多く含まれているようだ。土橋町にある「山椒魚」さんに妻が行った時にそこでとある写真集を観て、それについて述べていたのを聞き、この展示会でも説明されていた写真の持つ偶発性に考えが及んだ。絵画に比べて写真を苦手とするのは、まさしくドキュメンタリー性を持った偶発性で、そこに絵画とは異なる事実に基づいたストーリーがどうしても繋ってしまうようで、線と色で描く創作とは異なる他事ありきを感じていたからだろう。これは浅薄で実に狭い考えであって、最近映画を多く観て感動している自分は、それがカメラを通して連結された虚構の世界だと気づいておらず、そもそも音楽でも脚本でもあらゆる創作品の中には、本人が頭の中で描くよりも、ふと降りてくる作家本人の気づかない偶発性の連続で独特なアイデアを持っている事もあり、それらをいかにキャッチして形として描くかが重要なのだろう。それは偶発性の由来や技術や道具の異なる具象性の違いだけで近視眼になり、俯瞰としてアイデアの存在を見ていなかっただけのことなのだ。結局、いかに掴んで形に表すかという行為は同じなのだ。


ふとそんなことも考えてしまったこの作品展は、写真に対する関心を強めてくれた。きっと写真の上手な身近な存在への嫉妬もあるが、桑原さんとの話がとても楽しかったからだろう。ギャラリーへ行ったら、それは飲食店でも同様だが、作り手と会話することこそが面白いのだと気づかされるもので、作品は人間だから、なによりそこに接することが味わい深いことなのだろう。

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