6月17日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで中原俊監督の「櫻の園」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで中原俊監督の「櫻の園」を観る。


1990年(平成年) ニュー・センチュリー・プロデューサーズ、サントリー 96分 カラー 35mm


監督:中原俊

原作:吉田秋生

脚本:じんのひろあき

撮影:藤澤順一

音楽:熊本マリ

美術:稲垣尚夫

編集:冨田功

出演:中島ひろ子、つみきみほ、白島靖代、宮澤美保、梶原阿貴、三野輪有紀、白石美樹、後藤宙美、いせり恵、金剛寺美樹、菅原香世、永田美妙、丸山昌子、古川りか、西村雪絵、橘ゆかり、上田耕一、岡本舞、南原宏治


映像文化ライブラリーで上映される日本映画の多くが自分の生まれる前の作品だったせいか、小学3年生頃の立脚地を持って時代を眺めることになった。姉よりも少し年上の女子達が、演劇部員としてチェーホフの「櫻の園」を学校の創立記念日に上演するまでの数時間を描いたこの内容には、あまりにまばゆい青春そのものが光っていた。モノクロ映画や、生気を得た毛肌がふっくらしたカラーよりも、カメラは淡い光を取り入れて、演劇そのもののリズムを持ったワンカットの長さや台詞の作りは、ダンス部はあったが、演劇部を持った学校に登校した経験はなくとも、男女の差は別にして、バスケットボールでもってこの学生時代と若さの奔流を同感することができた。


制服姿の女子生徒が公園で騒ぐ園児のように活動していく前半は群像がまだらで、焦点は絞られるときはあっても広がっていて、次第に制服を脱いで肝心な役を持った女優に当たっていく頃には、衣装と化粧でまるで異なった様相へと変化している。その過程の描き方に効果の強い音楽のはめかたもあり、秘密の花園などという常套句らしい女学校の一面も加えながら、あまりに甘美な青写真が撮られていく。


スポットライトは春の外光と同じはかなさを持ち、スローモションは失われた過去を追憶するかのような衰えと死を備えてまどろみのように表情を動かしていく。悪い煙が存在しない火で警報を鳴らすようで、音にしろ道具にしろ、それぞれの内面を象徴して響き、漂ったりする。大人になる過渡期だからこその秘めた想いが沈みがちで、一歩間違えて罪を犯しそうな危うさが止まない。


自分の生まれたあとの映画だからこそ懐かしいと身を突く情操を持っており、三十歳半ばを過ぎて演劇に興味を持ち、おそらく、大人になっても実際の舞台までの準備はそう変わらないだろうと今を思ってしまう。すると、あまりに時が過ぎたみたいで、もはや、学生なんて頃は存在していなかったと思えるほどに、若いセリフのやりとりのもつ奔放な新しさが実体験として蘇り、ただ、若いから羨ましいなどと口にするのではなく、喉と目頭でもう取り返せない花の時期にむせびそうになる。


とてもよい映画を観た気分だった。学生が禁じられている煙草を隠れて吸い、先生に追いかけられて走るのは、はたしてどういうことだろう。それを20歳を過ぎて、30歳を過ぎ、40歳を前にしたら、一体どういうシチュエーションとなり、先生は誰で、煙草は何になるのだろうか。


そんなことはどんなものだって代わりになるだろうが、一緒になって逃げる友がいなくなったとしても、そもそもいなかったとしても、一人でそういう気持ちは持ち続けたいなどと、まるでミイラの憧れをもたされる青春映画だった。

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