5月9日(土) 広島市中区中島町にある歴史博物館「広島平和記念資料館」を観る。

広島市中区中島町にある歴史博物館「広島平和記念資料館」を観る。


どうしようもない時がある。つい頼んでしまった赤ワイン500mlのデカンタを飲み干せず、酔いの回る間をどうすべきか。家に帰ればそのまま二日酔いが待っているかも知れず、かといって市内を歩けばテイクアウトにそそられて食べれもしない弁当を両腕にぶらさげるかもしれない。


なんとか理性の働くうちに雨の降る夕刻の平和記念公園にやってくる。最近薄々気づいていたが、観光客の少なくなったこの公園内で、工事の終わった資料館の容貌に目をとられることが多い。


雨の日に観れば、太陽の力を借りることなくその特異な偉容に圧倒される。耳にしている音楽の効果もあるだろう。バルトークの「管弦楽のための協奏曲」がこのうえなく今の気分に合致する。


建築に詳しくないが、その端緒を与えてくれたのが建築を学ぶ日本人学生で、今もありありと浮かぶ男前の姿は年下なのに堂々としていて、スケッチもうまく、それでいて年上を敬い、端正な顔ながら素直でうぶな女性への憧れを名古屋の練達に訊ねていた。その彼と一緒に訪れたのが、サヴォア邸だ。


「ここに来たなら、建築に詳しくなくても、立派な証になりますよ」そんな言葉をくれたが、そのとおりだ。今でも大御所という名をあてにして、ピロティを好んでいる。そこで知ったこの単語はことあるごとに使われ、今もこうして資料館を支える柱に特別な感慨を覚えている。


数学的リズムを持つファサードを支える柱は工事中は隠されていて、いまこうして眺めていると、人のいない中で、薄曇りを嬉々とするように軽々と支えている。


わからずに使う建築の単語通り、なにもわからずに建築を観ている。それでも、覚える感慨があるのだから、それでいいのだろう。今は人が少なくとも、広島市内で最も優れたといっても過言でない建築が、その立派な威容をはばからずに示している。

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