5月4日(月) 広島市中区富士見町にある平和大通りのベンチに座る。

広島市中区富士見町にある平和大通りのベンチに座る。


なにより踏切にくいのが掃除で、空腹に促されてしかたなく料理したり、洗濯かごから漏れる臭さに我慢できずに回すのと異なり、掃除はさぼろうと思えばいくらでもさぼれる。


ダニエル(人名)。虫に対して勝手なあだなをつける癖があり、蚊なら、ヤーブラカ(ロシア語のりんごそのまま)、蜘蛛なら、クモンパス(赤塚不二夫さんのケムンパス)、蟻なら、オルミーチャン(スペイン語で蟻はオルミーガ)、などと、ロシア語やスペイン語に赤塚不二夫さんの混在したネーミングのなかで、ダニに関しては、西洋人の名前がそのままあてはめられている。


ダニエル、それらしき赤い斑点が皮膚に浮かび、しようしようと思っていた掃除にようやくとりかかった。火がつくととことんするのがこの家事で、冬物の衣類や布団の取り替えにもかかり、一日では終わりきらない洗濯の量となる。


食後の重たさや洗濯後の空虚感に比べて、掃除は心も体も爽快になる。それがわかっていてしないのは、時間がもったいないからだ。


好きだけど嫌いなそんな掃除を終えて、晴れ間の出た外でくつろぎ、焼き鳥弁当はおいしそうだ、このうどん屋はフェイスブックでみたことがある、カレーもいいな、餃子弁当は手頃だなぁ、などと街中を自転車でこぎながら、緑陰で一息入れようと平和大通りのベンチを見つけてスピードをゆるめずに土の道に入ると、おもいきり横転した。


水とウィスキーが吹っ飛び、右膝は苔むした地面によって抹茶色に汚され、近くのベンチに座っていたカップルの女性からは、イヤホンで耳は塞がれているにしても、表情と口の動きによる「だいじょうぶですか」が伝わり、口元に笑みを浮かべながら小さくうなずいて応えた。馬鹿ほど自分の失態を笑って誤魔化すものだから、おかしいほど恥ずかしいばかりだ。エヴィアンも遠くに転んでいる。


肉体と自転車の損壊状況を調べてから、ベンチに座る。連休の中日となる今日は、掃除を終えて重荷がとれ、派手に転倒しておろしたてのスニーカーが汚れようと、上々な気分は転びようがないのだろう。痛快な午後だ。

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