5月3日(日) 広島市中区本通にあるタイ料理店「イム・アロイ」のテイクアウトを食べる。

広島市中区本通にあるタイ料理店「イム・アロイ」のテイクアウトを食べる。


フェイスブックにこの店のテイクアウトの記事があがってきて、行こう行こうと思いつつ行けていなかったことを思い出した。タイ料理を食べたいと思っていたところで、テイクアウトのメニューを見れば、食べたかったが「にんにくやマナオ」でチャレンジできていなかったカオニャオ・マムアンがある。別名マンゴーミルクライスのこの料理は、タイのウィークエンドマーケットで買い、炎天下でその味にとろけた。タイの食べ物が美味しいのは訪れたことのある人もない人も知っているが、そのなかでとろける物があって、マンゴーやパパイヤ同様のフルーツでもあるキングの名にふさわしいドリアンがそれだ。これは別格の味わいで、ただ臭いだけでなく、味の旨さをもった陶酔の匂いの原因は、まさに虹と呼べる変化に富んだ味で、凄まじかった。それに並ぶほど美味しかったのが、カオニャオ・マムアンだった。


つい話は脱線するが、タイは青春の布石として思い出深い場所で、初めての海外旅行先となったバンコクの第一印象の恐ろしさは深く、南部を訪れてから戻った成長の証を試すところでもあって、ラオスをふらふらしたあとの準備場所として悠々したという、旅行の経験を確認する場所として、パッタイを食べまくっていた。話はいくらでも膨らむほど、常に変わらない青春の記憶をもたらしてくれるおいしい場所なのだ。


そんなタイでカオマンガイを初めて食べたのは、たしか北部の町ノーンカーイだった。バンコクでは食べたことのないこの料理は、後年家で料理をするのにベトナムやタイなど外国料理の本を読んでいたら、たいていレシピが載っていた。バンコクは華人の混血が多いとなにかで知ったこともあり、またノーンカーイでたまたま遭遇した祭りでは、軒先にマシンガンの弾より多く連なった爆竹が垂れ下がり、中華系の衣装に着飾った老若男女がディズニーのパレードよりも長く町中を進行していて、獅子舞のように操る龍のような人形が店に入ってはその激烈な爆竹を鳴らすのだが、雷の瞬間的な轟音とは異なり、連続して鼓膜をだめにする音を経験したのはこれが初めてで、人々はやはり火傷を負っていた。


そんなわけでカオマンガイは華人のもたらした料理ではないかと、真偽を別にした推測を持っていた。そして家で何度も作ったことがあるので、広島のタイ料理店で食べたことはなかった。


しかしテイクアウトとなると、カレーと一品ものを避けて無意識に注文していた。テイクアウトや配達サービスで店は忙しそうで、予約なしで入ったから少し慌ただしかったが、わりと早く用意してもらうことができた。


カオマンガイの味の方は、ライスを口にして、家で作ったものと別物だと実感した。本場のプロが作るのだから当然とはいえ、まず日本米とジャスミンライスの差に、鶏の質、それに出汁と塩加減、そして唐辛子入りの酢のちらしなど、要素がどれもタイ料理の遺伝子として際立っていた。テイクアウトで冷めてパラパラするジャスミンライスはしっとりと密度を作っていたが、冷えた分だけその味わいの浸透がわかり、こんなにおいしいのかとライスだけで十分に思えるほど美味しかった。鶏肉もよだれ鶏ほどとろっとはせず、身を保ちつつ柔らかさも持っていて、タイの鶏肉はどれもおいしかったと思い出させる味となっていた。


そしてカオニャオ・マムアンは屋台で食べたから、プラスチックの容器に入っている姿が本物らしい風情を持ち、マンゴーを口にして、固さよりも柔らかさの目立つ酸味も含む豊かな甘さにとろけ、ココナッツミルクにとろけ、もち米にとろける。ライスプディングを苦手にする人はいると聞くが、苦手のままいるよりも、味わえたほうがずっといいと思ってしまうほど、米と牛乳、もしくはマンゴーという日本人には考えられない組み合わせはおいしいものだ。


比較するのは意味のないことだが、もち米を扱うのに赤飯という食べ方になるのだから、国民性と風土の違いは大きい。昨日食べたもち米を使った揚げ餃子も、油で甘みは何倍も引き出されていて、その味わいの大きさはやはり島国とは異なる大陸の土壌を感じた。


赤飯に熟した柿を合わせれば美味しいのではと想像してしまうほど、熟れたマンゴーとココナッツミルクの相性はこのうえなく素晴らしい。今度はぜひ、店内で食べよう。

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