4月5日(日) 広島市西区草津南にある109シネマズ広島で「METライブビューイング2019ー20 第6作 ガーシュウィン作『ポーギーとベス』」を観る。

広島市西区草津南にある109シネマズ広島で「METライブビューイング2019ー20 第6作 ガーシュウィン作『ポーギーとベス』」を観る。


指揮:デイヴィッド・ロバートソン

演出:ジェイムズ・ロビンソン

出演:エリック・オーウェンズ、エンジェル・ブルー、ゴルダ・シュルツ、ラトニア・ムーア、デニース・グレイヴス、フレデリック・バレンタイン


こんな時期に映画館へ行くことは、はたしてどうだろうか。いろいろ考えたが、ほぼアフリカ系のキャストによるこの作品が観たくて足を運ぶことにした。


約4時間の上映時間で休憩は1回だけ、関係者へのインタビューがあるにしても決して短い作品とはいえない。華美に凝った装置でもなく、絢爛な衣装でもなく、回り舞台によるこの作品はとても親しみやすいオペラとなっていた。常軌を逸したアリアによる極限まで高められた情感の歌いよりも、そのままの感情の吐露のように、歴史的人物や特別な偉人などではなく、世間にいる人物による家族的な人間模様だった。


この作品がアフリカ系アメリカ人の南部にあるコミュニティを舞台にしていること、台本と音楽が白人によって作られたこと、そしてこの時代背景を考えることこそが、初めて接する人間にとって大切なことだろう。


やや冗長と思える物語に、「サウンド・オブ・ミュージック」同様に聞いたことのある「Summertime」や「It Ain't Necessarily So」などの有名な曲による物憂い見せ場もあるが、西洋の芸術らしいパッションはなく、男に翻弄される女性の弱い性質が描かれているにしても、くせの目立つ部分は少ない。ガーシュウィンの曲も耳なじみがよく、現代音楽らしい旋法もあるが、強烈なアクは足りないだろう。


それでもこの作品はニューヨークでは連日満員らしく、この上映でもカーテンコールはとても賑やかなものになっていた。それは日本人作曲家のオペラ作品が日本で上演されれば好意的に受け取られるように、アメリカにとって他の国には類をみない確固とした文化の独自性が息づいているからだろう。


アメリカらしさを感じるジャズのリズムやメロディーには、この国の礎として使い捨てられてきたアフリカ系の肉体が宿っている。振り付けを担当した女性へのインタビューで、彼らが持っている“血”を体現したかったとあるが、その言葉がこの舞台を語るのに最もふさわしいだろう。


アメリカに住むタイ人が中国人と勘違いされた。旅行中に中国人のように差別された。こんな話はいくらでもあるが、この舞台に登場するアフリカ系の出演者達を観て、日本よりもはるかに面積のあるアフリカ大陸に住む人々を、“黒人”という言葉だけでいかにくくっているかを思い知らされる。西洋人の顔を見れば、スラブ系、ゲルマン系、ペルシャ系、北欧系、などとなんとなく見分けられる気はするが、アフリカ系の人はまるでわからない。こんな時に、アフリカを一度旅行したいと思ってしまう。5年間アフリカ旅行を続けてきたサイクリストが話すには、近い地域でも、すこし離れると身長がまったく違ったこともあったという。


MET特有の陶酔させる舞台効果は少なかったが、躍動的で親和に満ちた出演者の舞台を観ていて、これこそ古き時代のアメリカが持っていたコミュニティであって、祖国は異なるも同じアフリカというルーツを持つ人々の、まさに一心同体となった家族のような関係の描かれた作品となっていた。


連日大盛況となっていた理由は、観ればすぐにわかる。決して偉大な芸術作品とはいえないが、アメリカという国のルーツが体現された、誇りと親しみの詰まった古き良き内容なのだ。

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