3月19日(木) 広島市西区横川町にあるベトナム料理店「BEP VIET ベトナムキッチン」で牛肉のフォーと豚肉のバインミーを食べる。

広島市西区横川町にあるベトナム料理店「BEP VIET ベトナムキッチン」で牛肉のフォーと豚肉のバインミーを食べる。


昨日のクスクス大会で人から聞いた情報を早速確かめるべく、近所のイタリア料理店ではなく横川のベトナム料理店に行ってみた。


調べた通り店の前に来ると、今しがた店から出たであろう自転車に手をかけるスーツ姿の若い女性がおり、自分が店に入ろうとするのを見ると、お食事ですか、とベトナムの人らしい抑揚と愛想で声をかけてくれて、お店の人につなぐとすぐに去っていった。


牛肉のフォーと豚肉のバインミーを頼むと、今はおすすめの豚肉のバインミーがあると言われ、写真に指差すと、これではないと言われるも、たどたどしい日本語ではよくわからず、とにかく豚肉のおすすめバインミーを頼む。


プラスチックを使われた店内の備品から、ベトナムらしい雰囲気が漂っている。特に割り箸を入れる赤いケースが特に強い要素として印象を放っていた。


まずバインミーが運ばれてきたので、すぐにかぶりつくと、紛れもない本物のバインミーが存在していた。甘辛さの塩梅があの湿気の多い国を思い出させる。おそらく、日本の唐辛子と異なる辛さ成分に、日本人の感覚とは異なる酸っぱさと甘さの比重が大根やきゅうりの膾に宿り、それにパクチーが加わるからだろう。こま切れの豚肉の表面はそれほど強くない八角で香ばしく焼かれていて、うっかりいまだ残っている犬歯の乳歯で噛んだとしたら、数ヶ月前にオリーブの種にやられたようにぐらついただろう。肉そのものは柔らかく、ケバブを想起させる分量は、ベトナム屋台よりも豪華な中身となっている。そしてなにより、パンがバインミーらしさを作りあげていた。聞いたところ、店内奥にある大きなオーブンだろうか、この店で焼いているらしく、フランスのバゲットよりも気泡は細かく、生地はもっと柔らかいのだが、まるで湿気にへたったような食感でありながら明るい小麦の香りは残り、コンビニの食パンのように膨らませたわけではないので、やはり噛みごたえがあるのだ。表面はパリッとしていて、パンだけでも確かな風味を味わえる。


次に牛肉のフォーをいただくが、ふと、フォーの印象をそれほど持っていないことに気づく。パセーラの上階で食べた記憶があるも、あれは鶏肉だったか。白島にある「ハノイフォー」でも、「アオババ」でも、フォーでなくブンチャーを食べていた。ここにきて、ラーメンや蕎麦のようにフォーを好んでいない自分が発見されるものの、やはりベトナムではいろいろなところで食べていたので、それらに比べるとスープの雑味は取り除かれていて、牛肉のだしがすっきりと磨かれている。もやしの食感やパクチーの味わいのバランスはさすがにフォーらしい個性があり、つるっとした米の麺も、昔は小麦に比べて量感が乏しく、どうも食べた気がしないと思っていたが、大げさにいえば翡翠のように冷ややかなこの麺は、涼しげにおいしい。薄い牛肉もクセは多く除かれていて、ほどよく肉の味わい残るさっぱりしたものだ。


なにやらちょっとした小皿もいただくことになり、つまんでみると、乾燥した葉はレモングラスの生える地域らしい香りが強くして、こぶみかんの葉だろうか、苦味があるも鮮烈に口の中に広がる。色づいたサキイカはその葉っぱの風味と辛味が表面をまとい、唐辛子だけでなく、生姜も加わっているだろう、ただそれは日本の生姜ではなく、別の名前を持っていそうなもので、顔面からの発汗量は著しい。乾物とスパイスの合わせ方が新鮮だ。


バインミーの入れられていた紙包みには、風情のある細い線のイラストが描かれていて、配色もベトナムの洒落たカフェらしい色使いになっている。住所が名古屋の大須とあり、あのアーケードのどこかにあるのだろうかと想像してしまった。パンの焼けそうな大きなオーブンに、巨大な冷蔵庫と冷凍庫、それに鶏肉をグリルしていた別のオーブンもあり、設備と店のイラストからも、小さくない会社の資本力を感じた。それが入店前にいたスーツ姿の女性にもつながった。


広島でもっともベトナム屋台らしい雰囲気を味わえる店だろう、他に2店舗しか知らないが。働く人も親切で厨房との距離が近く、開放的で家庭的な接客ながら、自然と調理に慣れたプロフェッショナルな風情も肉を切る姿から感じられる。


そして、ベトナムの一般の屋台よりも洗練されているだろう。当たり外れがあるのはどの国でも一緒だろうが、ここの店はもちろんそんな的外れにはならない。屋台らしいが、確実な実績と思える味がここにはある。

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