1月29日(水) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ多目的スタジオで「『松風』公開リハーサル」を観る。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ多目的スタジオで「『松風』公開リハーサル」を観る。


エリック・ロメール監督の映画と、「松風」のリハーサル、どちらを取るかと考えた結果として、代休をとったのは最善の選択だっただろう。


演劇もオペラも生の舞台稽古を観たことがないので、どんなものかと興味にそそられてちょっと足を伸ばすのではなく、強い好奇心に惹かれて待ち望んでいた。並ぶだろうと思って開場前に会場へ行くと、やはり並んでいたが、恐れていたよりは人がいない。むしろ開場後に来たとしても、まず着こうとするであろう席に座れただろう。


この公開リハーサルでどこに着目するか多くある中で、もっとも興味を持ったのは演出家がどのように作品を仕上げるか、そのやり方に最初から関心を持っていた。司会進行がとても滑らかだった平野さんや、独特の語り口で淡々と作品紹介をする細川さん、舞台裏のピアノに指揮する川瀬さん、出来上がった動きに見える4人の出演者にも注意してしまうが、やはり演出家の岩田さんがどのような動きをするかに注目していた。


午前に通しの稽古をして、夜の公開リハーサルでは返しの稽古を観ることになった。初めて知った言葉だ。欲を言えばきりがないなかで、公開リハーサルの独特の雰囲気は緊張があるも、プロとしてのスムーズな流れがあり、一定水準を超える仕事の質があった。当然のこととはいえ、これがあるからプロとしての職業なのだ。


観客のいることがどのように影響を与えるのか、やはりみせることを仕事にしている人たちだから、意識しないわけがないだろう。普段の稽古よりもやはり昂揚感と、満足はあるのかもしれない。率直な感想としては、元気があり、それぞれが親しみを持って一つの形としての作品に向かっている様子が垣間見れた。それは岩田さんが通る声で、だめだし、という言葉で細かい動きや発声に修正を加える場面で、自分はこの生々しい触発が欲しかったと気づいた。もっとも期待していたのは、その人が持つ視点だ。それは中国短編文学賞記念講演会で高樹のぶ子さんが作品に対してプロの視点で解釈と削除の説明をするのが最上のエッセンスのように、出演者の動きに対してどのように注文を加えるのか、その表現の一端から多くの基本的な基準をもたらしてくれて、いくらでも想像を膨らませることができるのだろう。


正直あっという間の時間だった。能舞台で観た「班女」に、NHKの放送で観た「松風」が基本となり、それぞれの良かった印象が組み合わさって期待は膨らむばかりだ。ただ、これほど価値のある公開リハーサルの現場に来る人が少ないのは、いかがなものだろう。着物姿で橋掛かりに登場した半田さんの動作に、部分部分の歌いなど、長いオペラ作品の抜粋だとしても素晴らしい一場面があった。贅沢な瞬間だ。


前回公演の「班女」が思い出される。音楽と舞台が好きな者としては、これほどの作品が身近に観れることは、もはや広島に住む人間の特権だと思ってしまう。県外からわざわざ観る価値のある作品だろう。


ただ、言葉はどうしたって嘘をつき、自分の中での伝言ゲームの繰り返しなので、もはや感想が本当を言っているか判別がつかなくなる。そんな浮かれた気分の誤解を解くならば、とても親和力のあった公開リハーサルだった。これがたしかな感想だろう。

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