1月26日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでエリック・ロメール監督の「緑の光線」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでエリック・ロメール監督の「緑の光線」を観る。


1986年 94分 カラー 35mm 日本語字幕


監督・脚本:エリック・ロメール

音楽:ジャン=ルイ・ヴァレロ

撮影:ソフィー・マンティニュー

出演:マリー・リヴィエール、リサ・エレディア、ヴァンサン・ゴーティエ、ベアトリス・ロマン


「美しき結婚」について感想を書き、キャストを調べるためにネットで調べていたら、登場人物のキャラクターに対して“イタイ女”という言葉で形容されているレビューがいくつかあり、読んでいると「緑の光線」の女性も比較に使われていた。


「飛行士の妻」でもこの女優演じる登場人物に対して理解を示さない表面的な反感のレビューがいくつかあり、それを書いているのはおそらく男性が多いだろう。その女優が今日の作品にも出ていて、先入見としての“イタイ女”がどのような人物を指すのか、要らないことなのに、そんな見方をしていた。


ああ言えばこう言うという、他人からの助言に対しての否定に、波間の反射のようにころころ変わる感情や、ヨットはだめ、肉はだめ、どれそもだめと付き合いの悪さと難しさがあるくせに、寂しがって誰かを求め、それでいて一人になる時間がないとわがままを言ったり、一人でいるにはあまりの場所と、急に気分を変えて滞在予定の山の町を日帰りしたり、そばにいる人間からしたら接しづらく、気難しく、たしかにある人間の持つ言葉の意味として“イタイ女”という形容はされるかもしれない。


その“イタイ女”の評価があるからといって、作品そのものが悪いとは誰も書いていないにしても、自分の感想としては、驚くべき繊細さで自信を失っている弱った女性が描かれている。あきれるばかりの理屈のない不可解な言動の奥底にあるのは、長く付き合っていた男性との別れが尾を引いているように思えるだろう。そこに何があったのかは語られないが、一緒に過ごしたという短くない時間が多くを説明しており、喪失がどれほどのものであったか、それは情緒不安定な登場人物を演じるマリー・リヴィエールさんによって見事に体現されている。長い台詞を字幕で追いかけることの多い作品が続いていて、また日本人と西洋人の顔や仕草の違いもあるので、演技の質に関しては日本映画を観るような細かな観察と感受はできずにいたが、感情が昂り、言葉を選びきれずに曖昧ながらも必死に説明する女性の姿に、まるで溺れた人間の慌てかたと、何か恐れを隠して取り繕う下手な忙しさがある。


仕事場でも家庭でも、部活でも、「どうしてこんな簡単なことができないのだろうか」と他人に思うことは誰でもあるが、“イタイ女”と形容する見方の人達にとってはこれも同じことかもしれない。強くなれ、自信を持て、笑い飛ばせ、自分にとってはたやすく思いこめることでも、できない人にはできない。それが占いの暗示をたどって緑の光線のもとで結果を手に入れる弱々しく、いわゆる“面倒くさい女性”である登場人物なのだろう。


しかしこの描かれる“イタサ”は誰もが備えており、社会上では多くの人が虚勢と慎みを持って隠しているか、もしくはそれほどの繊細さを持たないか、本当に芯から強く隠しているかだろう。登場するこの女性は弱ってしまい、普段は目にすることのない血液が傷から垂れてしまうように、珍しく表れているのだろう。痛さによって自信を失い、傷心が癒しを求めて人を探して、人を遠ざけているのだ。誰でもいいわけではない。


ディスコシーンはなく、使われる音楽は半音階が目立つヴァイオリンの音色だ。それがより寂しい悲痛を奏でている。エリック・ロメール監督の毎作品に風の強いシーンはあったが、この映画でも同様だった。ビアリッツの砂浜に多くの人がいるも、見つけ出すことができなければ、その数は孤独を強めるだけだ。


今日までの5作品のなかで、もっとも心をえぐり、同情を引き起こす映画だった。こんな女性を“イタイ女”なんて言ってしまえば、心がなく、慈愛もなく、痛みも知らず、あまりにも自身が寂しい人間になってしまう気がする。

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