8月21日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでクリス・マルケル監督の「レベル5」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでクリス・マルケル監督の「レベル5」を観る。


1996年 フランス パンドラ 110分 カラー Blu-ray 日本語字幕


監督・撮影・編集:クリス・マルケル

撮影:ジェラール・ド・バティスタ、イブ・アンゲロ

出演:カトリーヌ・ベルコジャ


冒頭を逃してしまったから、もう内容はつかめない。他の映画作品を観ていても、初めが握る鍵の大きさを感じるのに、とある女性がカメラ目線で語る言葉は、沖縄戦争に関する内容を見分けることができても、やや恣意的な語り口調の飛躍があり、自問的で、”彼”が誰だかわからなくなる。


昨年にパラジャーノフ監督の特集が組まれた時に、各作品を観ていくにつれて作風に馴染みだしてきて、頭よりも体で観る傾向が表れだしたように、今回のクリス・マルケル監督に対しての受け方も、捨鉢のような気配が出てきた。


日進月歩という単位では計れないコンピューター技術の発展により、この作品に登場する“OWL”というインターネットらしきものや、メールやゲームソフトの画面に、歴史的遺物を感じる。ただそれは、あくまでツールとしての役割であって、道具はあくまで道具でしかなく、それらを媒介して沖縄戦争について迫り、併せて、ログインしてはカメラに話し続けるローラという女性と、冷静な語り口の男性の関係も交えて物語は進んでいく。


関係図は見取れないが、安部公房の「榎本武揚」や大江健三郎の「万延元年のフットボール」を思い起こされ、対象とする題材への視点と近付き方が、目新しく感じた。おそらくこの方法は古いのかもしれないが、今の小説を全く知らない自分は、タブレットとパソコンを家で操作して、自分に必要かを考えた結果の選択としての携帯電話を使い続けているように、小説という枠組みの中でのLINEなどのソフトを知らないのかもしれない。必要ないから知る必要がない。その繰り返しの枠外で、刷新は続いている。自分も日々塗り変えられていると思うも、それは表面のペンキだけで、目鼻立ち等の造形はほとんどそのままなのだろう。


初期の作品からテクノロジーへの関心を窺えるクリス・マルケル監督らしく、常に新しい表現としてコンピューター技術を活用したのだろう。古いシンセサイザーやサンプラーにしか出せない音があるように、この当時の技術であったからこそ、マッキントッシュとフォトショップとエンドロールにあるようなこの古い作品は、いつまでも良い意味での古色を纏い続けたまま、アッシリアの壁画のような記憶を残し続けるだろう。


そして何よりも内容として伝わってきたのは、沖縄戦争の惨さだ。切腹、神風と同じく、他の国には類をみないものとして、集団自決の特異性が描かれていた。これは8月に、いくつか戦争にまつわる作品を観てきた自分にとっては、必ず知っておくべき内容だと、今回の特集の最後を飾る理由をこの作品に自分でつけてしまった。


潔い、そんな言葉では片づけられない。国の為は家族の為だった。ジャップやイエローモンキーなどとあまり変わらない鬼畜米兵なんていう言葉の先入観により、敵にかかってひどい目に遭わされるよりも、愛する人の手にかかって死んだ方がましだという、家族を想っての行為という側面があった。もちろん軍部からの命令により悲劇をもたらしたのは、突撃と同じ構図だろうにしても。日本人は、家族への愛がより強かったなんて思いもしない。惨たらしい出来事にどんな原因が慰めになろう。


分散的な映像の中で、極めて強烈なドキュメントシーンとしてあったのが、自分の手で家族を殺した金城さん本人の肉声だろう。


キリンを撃ち殺したり、ウジ虫のわいた肉体があったりと、他の作品にも凄惨なカットが編集されていたように、この作品にも心に傷を負いかねないシーンがある。それらはただ見せびらかすような意味はなく、人差し指でこちらを差し、見て見ろ、そんな意図をただ伝えるようなものだ。


今日でクリス・マルケル特集は終わりだ。シベリアの作品は観れなかったが、それ以外だけでも、この監督は巨匠として比喩に使ってしまいそうな印象を残した。ありきたりだが、本当に素晴らし監督だ。

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