7月31日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで松山善三監督の「ふたりのイーダ」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで松山善三監督の「ふたりのイーダ」を観る。


1976年(昭和51年) ふたりのイーダ・プロダクション 99分 カラー 35mm


監督:松山善三

原作:松谷みよ子

脚本:松山善三

脚本協力:山田洋次

撮影:中川芳久

音楽:木下忠司

出演:倍賞千恵子、上屋建一、原口祐子、森繁久彌、高峰秀子


中国地方の古い町並みの風景に、今の季節と同じ蝉と太陽の声と共に、立派に葉先の揃った稲を前景とした横一線の白壁を背景とするロングショット、虫や、実、葉などのズームインされたカットの編集、動く椅子の演出、汗まみれになって演技する男の子、目がくりくりして何しても目を奪われる女の子、渋みさえある自然な演技の倍賞さん、重みと軽さを合わせ持つ森繁さん、品の固まりの高峰さん、忘れ去られた家の中で、きらきらと舞い続ける枯れた木の葉、消えたイーダについて語る時の椅子と男の子に女の子を三点とした構図、原爆について知った時の椅子の表情の変化、作品を構築している脚本やカメラの特殊効果など、気に留まった点はいくつもあるが、この映画の最大の効果として自分に与えたのは、暖かくなってから、平日でも休日でも、朝、昼、夕、そして夜と、今もこうして文章を書いている平和記念公園のベンチに座ることに対してを変えたことだ。


原爆によって多くを失われた場所で、日頃自分は座り、音楽を聴き、文章を書き、人を眺めている。その時々に、ここであった悲惨な出来事について忘れていることを強く自覚させた作品だった。この映画は子供向けであろう。原爆の凄惨と、被爆した人間への風評と後遺症も端的に描かれている。作品には被爆死した人間の実際の写真も交えられていて、改めて視覚による記録の強さを思い知らされた。


イーダを探しに広島へ来た動く椅子は、今とは違う相生橋に居たり、イサム・ノグチの橋の端を動いたりしていた。自分の知らない、ベルボトムのジーンズが全盛していた時代の広島の風景だ。


最近ラジオで、語り部の高齢化について話されていた。映画を観ていて、今よりもずっと原爆の影響が残っている広島と時代なのだと感じた。


平和記念資料館の前にはテントが組み立てられ、三角コーンも棒を持って並んで塞ぎ、日に日に設営は進んでいる。一週間も経たずに緑の芝に椅子が並ぶだろう。8月6日は近づいている。


来月も広島市映像文化ライブラリーでは戦争についての作品が上映される。原爆にまつわる劇や朗読もある。平和記念公園があまりに日常に溶け込んでいる自分に、原爆についての認識と知識をもたらし、ベンチに座ったらたった一度でもいいから、亡くなった人々へ想いを馳せる習慣をつけようと促す、たしかな映画だった。

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