7月20日(日) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・リハーサルホールで「村主紀子&広響メンバーによる室内楽の夕べ」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・リハーサルホールで「村主紀子&広響メンバーによる室内楽の夕べ」を聴く。


ピアノ:村主紀子

ヴァイオリン:蔵川瑠美

ヴィオラ:今井啓子

チェロ:マーティン・スタンツェライト

コントラバス:飛田勇治


パッヘルベル:カノン ニ長調(ピアノ五重奏版)[川口悠介 編曲]

ラフ:カヴァティーナ 作品85ー3(ピアノ三重奏版)

ドヴォルザーク:スラブ舞曲(ピアノ五重奏版)

第2番 ホ短調

第10番 ホ短調

第15番 ハ長調

シューベルト:ピアノ五重奏曲 イ長調 作品114「鱒」


パッヘルベルのカノンは有名な曲だからこれだけを音源で聴くことはまったくなく、ピアノ五重奏曲版を耳にして、こんなに素晴らしい曲なのかと多幸感に包まれた。耳触りの良い緩やかな旋律がヴァイオリン、ヴィオラ、チェロと渡されて、牧歌的な雰囲気が現実のものではない天上の豊かさにまで仕上げられている。カノンとフーガは特に好きなので、驚くほど良かった。


ラフの曲は、弦の響きがパッヘルベルと随分と異なっていた。蔵川さんとマーティンさんの演奏は、厚くビブラートをかけられていて、ねっとりではなく、全身で歌い上げる大きさがあり、情感豊かに高揚させるイタリア歌曲の朗らかさで、質と密度の濃いハーモニーに心まで引っ張られるようだった。


村主さんの演奏は、昨年のゲバントホールでシュターミッツ四重奏団と第2,10,15番を聴いていて、その時の印象は、日本で食べるカレーやケーキが、インドやヨーロッパでの味付けと辛さや甘さが大分異なるように、チェコの人達による本物の味付けとも言うべきドヴォルザークの音色に心酔してしまい、村主さんのピアノはやや控えめな印象があった。今日の演奏は、前2曲に比べていくぶん冷たく、速さを持った音色となり、民族的躍動感があるも、あの時のようなスラブ人特有の急旋回するようなテンポは抑えられていて、村主さんのピアノの音色が今回は、優しく、繊細な音色であるも、活き活きとして耳に聴こえてきた。走り出すピアノの指使いには、女性らしさのある、ロシアの方ではない、ボヘミアらしい土地の叙情性が染み込んでいた。


シューベルトも前回のシュターミッツ四重奏団で聴いたが、弦楽四重奏曲で感動疲れしたあとで、あまり集中して聴けずに終わった印象があった。それはシュターミッツ四重奏団と村主さんとのわずかな呼吸の乖離も感じたのもあったが、今回は集中して各楽章を細かに聴くことができた。堂々とした演奏の蔵川さんが振れずに先導していて、涼やかな表情で圧倒的な音圧と技術を奏するマーティンさんに、第2楽章でヴィオラの永井さんの音色が好ましく目立ち、太く分厚い音色だが切れのよいコントラバスの安定した飛田さんと、各楽器の調和が和やかで、前回は練達の四重奏団の大きさで見えにくかった村主も、メランコリーな響きも含んだピアノの音が、第5楽章で綺麗で存在感のあるパッセージを流していた。


オーケストラ等練習場で聴く室内楽は、各楽器の細かい響きが詳しく聴こえて、表現を感じやすい。コンサート・ミストレスの蔵川さんの高い技量と信頼のある腕前が確かめられて、今後の広響の演奏会が楽しみになった。また、7,8年前に東京で初めて聴いた広響で、シューベルトのアルペジオソナタをソリストとして弾いていたマーティンさんが思い出された。この人の響きは特別だ。


スイスのエメンタールチーズ、ウィーンのシュニッツェルにチーズも挟んで揚げられたコルドン・ブルー、ザルツブルク郊外の鱒の美味しい店、どれにもチェコを代表する飲料であるビールでオチがつけられた飛田さんの食指をそそるおいしい話に飾られて、とても和気あいあいとした演奏会だった。

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