7月3日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでロベルト・セドラーチェク監督の「ヤン・パラフ」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでロベルト・セドラーチェク監督の「ヤン・パラフ」を観る。


2018年 チェコ 124分 カラー Blu-ray

監督:ロベルト・セドラーチェク


“ヤン・パラフ”、この映画の名は、何か強い響きを持っており、パンフレットの詳細を読まずに劇場へ来たので、白く透き通った肌の優しいまなざしの青年が“ヤン・パラフ”と呼ばれるのを観て、この作品はこの人物に焦点のあたった物語だと予測が立った。それから焼身自殺によって反戦を訴えるベトナム戦争の記事によって、チェコスロバキアの物語の時代設定を知る。


この人物は、ヤン・フスと同じように知っている人には知られているが、聞いたことのない自分は映画の展開から少しずつ明らかにされていく。やや白みがかった映像は、鮮明だが古い時代を、そしてのちのちにこの映画の主題を表していることに気づかされる。感情のぶつかり合う目立った演出や出来事はそれほどなく、カレル大学に通う哲学科の青年を中心に淡々と、むしろ叙述的に物語は展開されていく。


スムルコフスキー、ドゥプチェク、ノヴォトニー、などのチェコスロバキアの歴史に関わる政治家の名が出て、人物も、壁に貼られた写真も、糸釣り人形も登場するが、知らない自分にとっては、トロツキーやスターリン、もしく毛沢東やホー・チミンなどの傑物みたいにどのように歴史に関わっているかまったく知らないので、映画で語られる場面の多くは、自分の背景知識の乏しさでは手を触れることができず、植生や家屋などを知らずにバスからの景色を観るように大したこともなく過ぎて行ってしまう。


ベットの上で寝ている時にラジオがソ連軍の包囲によるチェコ事件を生々しく伝えたり、デモ行進や、カレル大学の立てこもりなど、様々な出来事が青年の環境に起こり、急ではないが、チェコスロバキアがソ連の影響下へと置かれる様子が順々に進行していく。ポーランドの女性から抗議の為の別の焼身自殺が語られる場面で、確信と呼ぶべき予感が少しする。


それからも意気を失っていく仲間や教授、果ては政治家を目の当たりにしてから、青年がベトナムの焼身自殺の写真を本でめくる場面を観て、他の結末を考えられなくなる。


それからは、予期した結末を待ちながら作品を観るという、それまでとは全く別の観点に立ち、恐ろしいのか、期待しているのか、待ちわびているのか、それでもひどく暗い気持ちを持って、静かで、厳かな夜の雪原に浮かぶ花火の新年や、帽子のないことを気にする母親の姿に、たまらない気持ちになる。


これは感傷的な映画ではなく、「プラハの春」という変革の歴史に登場する燃え尽きた青年を軸にした歴史の教科書のようだ。しかし、描かれているのは、ナイーブな、綺麗な青年の純粋な心による、個人的な悲劇だ。


この事件が意味することは幅広く、多くの解釈が得られるだろう。映画でヨーロッパを旅する今回の特集で、一国の歴史を深く迫らせる作品に、ベトナムやカンボジア、ドイツ、ポーランド、色々な国で、食事や観光などを楽しむだけでなく、歴史に触れて想像力を鍛えられたことを思い出した。

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