6月30日(日) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ多目的スタジオで「オトリヨセ企画 in 広島」を観る。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ多目的スタジオで「オトリヨセ企画 in 広島」を観る。


【お品書き】

「ムシニメフ」

振付・演出・出演:中西あい

「Tales to fill you with flowers」

振付・演出・出演:栗原麻里子

「forward→→→+」

振付・演出・出演:ACDC+

岩手萌子、大橋美香、空律江、宮廻貴衣、矢藤智子、善岡宏和

振付・演出:新川秀明

「愛と疎遠」

振付・演出・出演:オトリヨセ企画

杉山絵理、中西あい、乗松薫


チラシの品名には、“ダンス←ナマモノ!! お茶とお菓子”とあるので、何かしらの踊りを観れるのだろうと思って足を運んだ。


お品書きには、4つの舞台が書いてあり、10分の休憩を挟むも、約1時間半の公演時間だ。


「ムシニメフ」は、暗い舞台にスポットライトが降りると、一人の女性がデニム生地の腿くらいの丈のワンピースを着ていて、生の脚が白く浮いていたので短パンが下にあることを知ってほっとした。虫を追うような体の動きに、森山未來さんが来た時の舞台の冒頭を思い出した。あの時は背を向けていて、痒さとうるささに手足を神経質にぐにゃぐにゃ動かしていたが、今は虫の存在を目で見つめながら追うような形だった。コンテンポラリーダンスだろうか、青を基調とした照明に、音楽の枠組みはわからないが、電子音のビートが一定したなかをシンコペーションと不協和音も混じるピアノが流れていて、慣れているならつかめるのだろうが、一人の女性から、言葉でも、感覚でもとらえにくい体の動きが続く。ただ、線の動きはスムーズで、時折クラシックバレエの素養を感じるような手足の指先の動きがあった。孤独と小さな不安を感じる踊りで、それは「私は私であることを危ぶまれたとき、私らしくいれるのだろうか。」という作品の説明書きによって答えを得たように出た感想で、青い印象が残る舞台の踊りは、青春などではなく、青の反映による暗い青のようで、舞台左上部からの水色と、右上部からの青色の照明の狭間にいるような、定まらない青さが表現されていたような気がした。


「Tales to fill you with flowers」は、絵本の英語による朗読から始まった。倍賞千恵子さんを想起させる額の整った顔立ちに、絵になる横顔で、花柄の長いワンピース姿で女性が現れる。フェミニン、そんな意味もわかっていない言葉を思い起こさせる音楽の中で、ワンピースを揺らして踊る。先程よりも柔らかで、迷うようで、おとぎ話のようだった。ふと、最近聴いていたcoccoを想起した。夢見がちなのは、現実をすでに知っているからもう飽きてしまい、人間性にもう希望など見いだせず、覚めているからのようだ。少し残酷と狂気を感じた。舞台を確かに変える存在感があり、動きの線も綺麗で、天井からのスポットライトに絵本と一緒に回る姿が終わり、ぽつんと本が残った。とても雰囲気のある踊りだった。


「forward→→→+」は、去年、今年と観た近藤良平さんのACDC(アステールプラザ・コンテンポラリーダンス・カンパニー)の人達が出演していて、親しみやすい選曲に全体の踊りがあり、笑顔も多く、健全な動作で舞台を動き回り、それでいて日常の一部を抽出して少し捻りを入れて打ち出した踊りもあり、たった2回しか観たことがないくせに、近藤良平さんの楽しんだ踊りの流れを汲んでいることが観てとれた。後半最後に、大植慎太郎さんと、平原慎太郎さんの舞台で観たことのある、肉体と肉体の変形的な動きも組み込まれているも、近藤さんの影響らしい抽象的な振り子のような動作もあり、何か、広島で片手にも満たない回数のダンス観賞でしかないのに、この作品に自分の経験的な要素を振り返るようだった。


「愛と疎遠」は、動きの特徴の異なる三人の女性が、冒頭からハードロックらしい音楽のなかでそれぞれが蠢き、それから止まって、客席へ様々な表情の視線を長々と見せてから、三人の体は絡み合い出す。臭いを嗅ぐような仕草で、流動的に三人が動く姿などは、コンテンポラリーダンスを観たことのある経験の乏しい自分には新しく、大きい体の乗松さん、身軽に動く杉山さん、クラシックバレエの素養という心棒の入った中西さん、それぞれ個性のある身体表現が絡み合い、汗が飛び散り、呼吸が激しく聴こえ、生々しい踊りが展開されていった。ベートヴェンのピアノ・ソナタ第8番ハ短調が使われ、第1楽章のピアノの走り出したところでの演出と曲調との乖離が面白く、それからも小道具を使い諧謔的な動作を見せるところなど、ピアノに乗っかってそのまま表現するのと違った良くも悪くともとれる新奇な味があった。個人的には、第3楽章だっただろうか、それとも第2楽章だったか……、もはや定かではないが、中西さんのクラシックバレエの白鳥の動きに、コンテンポラリーダンスとは異なる確かな実力を見て、首の角度、腕の上げ方、手首から指への運びなど、ぞくぞくする表現があり、舞台左後方で羽ばたかせる動作は、「白鳥の湖」が好きでバレエに関心を持った自分には、魅力的な覗かせ方だった。


精一杯に踊りきり、思いの詰まったはきはきした舞台挨拶で締めくくられて、観ているこちらも爽快な気分で終わった。ただこの「オトリヨセ企画」は、品名に“お茶とお菓子”と記載されているように、舞台後にお茶会があった。社交の場が苦手で、立食パーティーなどあろうものなら、一人居場所を探して群衆の中の本物の孤独を感じる自分には、とても恐ろしいものだ。もらった付箋にアンケートを書き込み、すみやかに出口へ移動して、それを壁に貼って帰ろうとすると、「お菓子があるので」と関係者の方に言われ、「ああ、はい」と答えて帰ろうとすると、「どうぞお持ち帰りになってください」と察して、優しく声をかけてもらったので、もみじ饅頭を1個だけもらい、そそくさと出口へ出た。


おっさん一人が、素敵な女性ダンサー達とお茶会をする勇気などとてもない。「ムシニメフ」のように、自分自身が危ぶまれる。交わってこそ、出演者の皆さんは満足になるだろうが、自分勝手な人間は、観れただけで十分だと言い聞かせ、3度目のアールグレイを煮出し、もみじ饅頭を食べながら感想を書くのみだ。

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