4月26日(金) 広島市中区土橋町にあるイタリア料理屋「パルコ デッラ パーチェ」でランチを食べる。

広島市中区土橋町にあるイタリア料理屋「パルコ デッラ パーチェ」でランチを食べる。


カレーでも、ラーメンでも、無性に食べたくなる料理がある。最近はその中に、ピザが加わっていた。商工センターにある店、十日市にある店、どちらも閉まっていて食べられず、今週末にどこかの店に必ず入ろうと思っていたら、ちょうどよくランチの誘いを受けた。


仕事の昼休憩に食べるので、連休前にすでに運送会社がパンクして発送できない暇な業務の中、気の抜けた状態でさぼっていたら、ミスが突然やってきた。それも、別々の日に生じたのが、揃いも揃って、狙いを定めたように一斉に襲いかかってきた。


大したことではないのだが、小さい人間ほど小さな事柄を気にするもので、泣きっ面に蜜蜂程度の連鎖だが、ひどく打ちひしがれた。自尊心の高さにより、つぶてに転んで骨を折るのだろう。


体の傷同様に、心の傷も受けたばかりは血が出て、痛みが響くように、様々な想念が頭に浮かび続ける。原因探しに、その前後の関連、倒れかけた自信を戻すための空疎な言葉の浴びせかけ、原因を他人にあてて、それを自分に戻す作業の繰り返し、などなど、考えるなといいながら、考え、もう、これは時間が経つまでは、我慢で、しようがない。


そんな頭が無駄に働き続ける状態で昼休憩に入り、店へ行く。料理が運ばれてくる前に、ミスの話を湿っぽくならないように、諧謔的に話そうとするも、やっぱりひっかかっているのだろう、元気が出ていない。


しかし、ピザが運ばれてくると、どうだろう、太陽の見た目だけで力が湧いてくる。フォークでトマトソースを少しとり、口にすると、最近読んだ「焼きたて!!ジャぱん」という漫画のリアクションが、決して大袈裟でないということを納得する。輪郭と厚みを持った豊潤な甘みと酸味が、はっきりと、ミスによる傷ついた箇所を癒やし、中和していくのを体感した。弾力のあるチーズが、咀嚼するごとに、エンジンのピストンのように、肉体にたくましさを取り戻していく。


こんなものだ。おいしい料理はたやすく活力を取り戻す。マルゲリータで表情が緩み、溶ける溶けない二種のチーズの入ったハムのカンツォーネに目の輝きがやけに増す。それにミルクのジェラートが顔をだらけさせる。


そんな中、陽気になる前に、同席する相手はミスについて「しょうがない」と言っていた。なんて染みるのだろう。自分で自分に言うしようがないは、なんともしようがない。同じ言葉が、こうも違って身に迫るのは、料理と同じだ。人に作ってもらう食べ物は、同じレシピでも、まるで違った味わいになる。


食後はもうミスなど忘れていた。言葉ではなく、本当に忘れるからおかしなものだ。隣のテーブルには、ドイツ語を話す三人家族で、小さな娘さんは、髪に淡いグリーンの花を挿していて、まるで、メリザンドのようだ。店内には、縦長の濃い緑のサンスベリアが銀杏葉に広がり、胡蝶蘭が白く垂れ下がる。外は、風があり、天気が早く移り変わり、綿の雲間に青い空が透ける。


食事は、誰かと共にするものだと、久しぶりに実感した。

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