3月8日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで鈴木清順監督の「刺青一代」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで鈴木清順監督の「刺青一代」を観る。


1965年(昭和40年) 日活 86分 カラー 35mm

監督:鈴木清順

出演:高橋英樹、和泉雅子、花ノ本寿、松尾嘉代


冒頭のタイトルコールからふんどし姿の刺青が何人も現れて、見事な文様が映画を飾るのかと思いきや、ぱったりと刺青は消えてしまう。それからはほとんど色を見せず、高橋英樹さん演じる村上鉄太郎が胸から肩を見せ、終盤で背中の青いのを晒すくらいだ。罪を犯し、逃げ、その先で渡世人であることを隠す物語だから、刺青は見せてはいけないのだ。


トンネル工事現場の人足達が生き生きとしていて、昭和の映画らしいわざとらしいあげ足やちょっかいをして快活な笑い声をあげるのは、現代と違い野暮ったくて人情がある。荒っぽく直情的であるからこそ、情にもろく人懐っこい。もはや失われた風景のようだ。


腕のない渡世人や、婀娜っぽくも秘めた思いを抱えた奥さんが登場するのは、他の鈴木清順監督の映画でも登場する人物だ。人妻に恋する物語は「関東無宿」と似た設定だが、この映画では軟弱な人物による向こう見ずな恋で、理性と仁義による抑制ではなく、無知で無謀な若い彫刻家のいたりで、目のかゆくなるような不始末だ。


より幾何学的なショットがみられ、刺青を意識してだろうか、北欧の影響を受けたようなライトで親しみやすい現代の色調ではなく、やや暗さと湿っぽさを含む赤や青の照明を使った演出があり、それは人間の色情や血を連結させる艶かしい色で、鬼を彩色するのでもあり、古いネオンの色で見つけられるマッシュルームカットのような時代がかった色だ。


その中で、際立って快活で、度量の深い役を演じているのが和泉雅子さんで、昨日に観た「悪太郎」と違い、カラーに映されたその姿は、誰もが好感を寄せてしまう凛々しさに、女の強さや、頑迷そうでありながら、芯のしっかりして、先々と今を見据えて意志を固めた聡明な女性が演じられている。頼もしく、風采が良く、とても可愛らしく、昨日との役の違いで演技の上手さが輪郭として浮き出ている。


任侠、渡世人、ヤクザ。男らしさのうまみが、少しずつ分かってきたようで、なんとなく、暴走族の発生理由や、その風紀などが理解できてしまうほど、鈴木清順監督作品には昔の日本の文化の側面が如実に表れている。

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